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【第2回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第2回】 アンゴルモア 元寇合戦記

 世評の高い作品だ。

「試し読み」という連載の趣旨に照らして、既刊8巻のところを、あえて2巻まで読んだところでこの原稿を執筆している。でも「書き終わったらさっさと続きを読みたいな」という気分で書いている。世評の高さは十分頷ける作品だった。

 題材は歴史の教科書でおなじみの「元寇」。1274年に起きた文永の役を描いている。
 主人公は、鎌倉幕府内の内紛で流人となった御家人・朽井迅三郎。実は対馬では蒙古の進軍を察知し、(死んでもいい)戦力になりそうな流人を引き受けていたのである。かくして、朽井迅三郎は未曾有の蒙古軍との戦いに巻き込まれていくことになる。
 当然、物語はある程度、史実を踏まえて展開していくことになる。だが作者はその史実の隙間を埋めるように(というより、ちょっとはみ出すぐらいに)、大胆に漫画的な想像力をふくらませる。

 たとえば朽井迅三郎は陰流として伝えられた“義経流”の使い手。この義経流、調べてみると名前は伝えられているようだが、どうも具体的に実体が知られているものではない様子。そういうものを、わざと主人公のキャラ立てに使うあたり「主人公の強さのサイン」としてケレンが効いている。またヒロインである対馬の地頭の娘。輝日姫の出生についても、思わぬ人物を絡ませて、風呂敷をどんと広げている。このあたりも戦いの趨勢とは別に、物語が先が気になる要素になっている。
 とはいえ文永の役を題材にしている以上、戦いの結末を変えることはできないだろう。蒙古軍は、物語の発端となった対馬を抜き、壱岐を侵攻し、最終的には博多湾から上陸する。果たして8巻でどこまで戦いは進んでいるのか不明だが、2巻までのペースを見る限り、まだまだ連載は続きそうな気配が漂っている。

 こういう戦いを描いたものは、「戦いの意味」を最終的にどう示すかが大きなポイントだ。
 歴史を題にとった作品は、まず「歴史の中でその戦いがどういう意味を持っていたか」という作者なりの「歴史の切り取り方」が求められる。そして、さらに主人公にとってその戦いがどういう体験だったかも示されることになる。

 そんなことを考えながら本作を読むと、どうしても司馬遼太郎のことが思い出される。

 司馬遼太郎はその著書の中で、鎌倉時代を日本が中国や朝鮮と異なる歴史を辿り始めた時期と位置づけている。その根底にあるのは、“百姓”であるところから生まれた素朴なリアリズムであり、それが「名こそ惜しけれ」という坂東武者の精神に昇華しているというのだ。
 朽井迅三郎の周囲にいる登場人物は、2巻までの段階でもかなりバラエティに富んでいる。この雑多な階層の人間たちは、これから、朽井迅三郎を媒介にして「名こそ惜しけれ」という倫理を共有するようになるのではないか? そして、それが蒙古軍という外圧で圧せられた時、そこに“日本人”としか呼びようのない、それまでの垣根を超えた“共同体”が生まれる瞬間が描かれるのではないか?
それは挫折した御家人である朽井迅三郎にとってもひとつのゴール足り得るはずだ。
そんなゴールを妄想しながら(こういう妄想ははずれるほうが楽しい)、続刊を手に取ろうと考えている。

 18年にはアニメもスタートするという。こちらもどんな仕上がりになるのか。ファンのハードルは上がっているはずなので、そんなファンを驚かすような作品を期待して待ちたい。
義経流の朽井迅三郎。戦いにはめっぽう強い。

輝日姫。その美しさと共に、強さも併せ持つお姫様。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。


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