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【第3回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第3回】 トミノの地獄

 インパクトのあるタイトルだ。本作を例のごとく2巻まで読んでみた。

第2巻の「前巻まで」が名調子でこの作品の概要と雰囲気を伝えている。そのまま記載してみよう。

「産みの母親に棄てられるように、田舎の親戚に預けられた双子の姉弟。ミソとショウユと呼ばれ、苛烈な虐待を受けながら育ったふたりは、やがて浅草の見世物小屋に売り飛ばされてしまう。
双子を棄てた母は銀幕で活躍する「幽霊」女優・歌川唄子であり、父は、その見世物小屋の怪物的な興行主・シ王(引用者注・サンズイに王でウォンと読む)だったのだが、ふたりはそれを知る由もない。
花の都の歓楽街に戸惑いながらも、一座の面々にトミノとカタンと名づけられ、虐げられてきたもの同士の思いやりに囲まれて、ふたりは生まれて初めて貧しいけれど温かな日々を送ることができていた。
だが、シ王の思いつきで、姉トミノはイカサマ新興宗教の教祖となった蛸娘・エリーゼのお付きとなり、カタンは見世物の強引な仕込み中に火傷を負ってしまう。
引きちぎられるように離ればなれになった哀れな双子が通る、それぞれの地獄巡りの行方は、如何…。」

 トミノとカタンが生きている現実。その現実が地獄であり、その小宇宙の中心にいるのがシ王である。そしてシ王は、虐げられてきた見世物小屋の人間だけでなく、新興宗教を起こして市井の人々をも自分の地獄へと引きずり込もうとしている。シ王が自覚的にその状況を作り出しているのは、「神を見た」とひとり高みに立って独白していることからも明らかだ。この暗黒の太陽であるシ王の昏い魅力を打ち払うことができない限り、トミノとカタンは地獄に囚われたままだ。

 打ち払うべき要素はどこにあるのか。

1)トミノとカタンの母である唄子。彼女は2人を棄てた母ではあるが、改心していれば、その母性がシ王の男性的支配に対抗しうる要素になるかもしれない。幽霊役が当たり役の女優なので、死と再生のモチーフを担いうるキャラクターではある。
2)シ王の部下の張。彼はシ王に面従腹背のようである。彼の裏切りがシ王を倒すきっかけになるかもしれない。だが張がシ王を倒したところで、それは地獄の獣の喰い合いに過ぎない。そこに「救い」は見えない。
3)トミノとカタンは心が通じ合っている。絶海の孤島で人工的にフリークスにされようとしているカタンが、トミノを強く思った時、トミノはそこに反応し、インナースペースへと入り込む。そこには未来と思われる風景も描かれている。この双子の能力がどう結実するのか。だが、この能力は“神”の領域であり、シ王が阿片の果てに見た“神”よりも本物の可能性がある。

 この3つの要素がどのように絡み合うのか、あるいはこんな予想とはまた違うラストが描かれるのか。とても興味深い。丸尾末広の残酷で美しい想像力が導き出す結論は果たして。

 なお「トミノの地獄」とはもともと西条八十の詩のタイトル。丸尾の描く猟奇的な幻想と通じ合うような、地獄めぐりのイメージが綴られた詩である。
ミソ・ショウユと名付けられた双子の兄弟の運命は…。

虐げられて育つ2人には、どんな未来が待つというのか?

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。



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