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【第4回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第4回】 虐殺器官

 伊藤計劃の小説全3作をアニメ化する「ProjectItoh」の掉尾を飾った『虐殺器官』。本作はそのコミカライズだ。原作小説からダイレクトに漫画にしたのではなく、(おそらくは)映画の脚本をベースにして漫画を起こしている。本作のポイントはそこにある。

 大規模なテロ事件を経て、あらゆる情報が徹底管理されるようになった近未来。一方で一部の先進国以外では、内戦が次々と起きていた。そこにはひとりの男の影があった。名前をジョン・ポール。彼が姿を見せると、その国ではやがて内戦が起こり、虐殺が行われていた。彼は何を行っているのか。米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉は、“虐殺の王”ジョン・ポールを追跡する命を受けて、チェコのプラハへと向かう。そこでクラヴィスは、驚くべき真実を知る……。

 映画化にあたって脚本・監督を担当した村瀬修功は、原作に登場する「クラヴィスの母親の死の思い出」の取扱に苦慮したという。作品のテーマに触れるそのエピソードを追求していくと、同じく原作の魅力であるミリタリーアクションを中心としたエンターテインメント性からどんどんはずれていくことになる。どちらをとったほうが映画として幸せな形になるのか。最終的に完成した映画からは、最終的に母親のエピソードが削られていた。

 コミカライズを担当した麻生我等は映画がそうした葛藤と選択を経て完成したことを踏まえつつ作品を執筆しているのではないだろうか。もしかすると脚本の決定稿ではなく、その前の稿も参考にしているのかもしれないが、いずれにせよ、クラヴィスの母のエピソードを始めとする、完成した映画には入れられなかった要素が改めて漫画の中に取り込まれており、そして、そこがこの漫画のテイストを決定づけている。

 そのテイストを視覚的に象徴するのが主人公クラヴィスの造形だ。漫画に登場するいくつものメカや多くのキャラクターについては映画版を踏襲しているにもかかわらず、漫画のクラヴィスのデザインは映画とはまったく異なったものになっている。漫画版はもっと不安定でナイーブな雰囲気の――つまり「母親の死の思い出」を描いても違和感のないような――デザインなのだ。

 そのほかにも、原作の会話を改めて拾ったり(ヒロイン・ルツィアがJ・G・バラードを語るくだり)、アレンジして組み込んだり(ペンタゴンにおけるユージーン&クルップス社のプレゼンテーションの様子)といったくだりは多い。全体の骨格は映画を踏まえつつも、尺の制限もなく、読み返すこともできる漫画の特性を生かして、細部は自在に原作のテイストを盛り込んでいるのである。

 こうやって原作小説、映画、漫画と並べて見てみると、時に活字に接近し、時に映像に接近する漫画という表現メディアは、実に貪欲な胃袋をしていることを改めて思い知らされる。この貪欲な胃袋が、あのラストシーンをどのように消化するのか。やはり最終巻(第3巻)はそこが一番の注目点になると思う。
地獄は自分の頭の中にある。自分は母親を殺してしまったのか…? クラヴィスはたびたび悪夢を見る。

言葉だけで世界を混沌へと陥れるジョン・ポール。彼と対峙するクラヴィスは…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。




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