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【第5回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第5回】 オレが腐女子でアイツが百合オタで

 女の子同士の特別な関係を描いた“百合”作品をこよなく愛する男子高校生・吉田玲時。彼は、ある出来事をきっかけに、クラスメイトの保科美鶴と心が入れ替わってしまう。しかもあろうことか、保科は吉田がもっとも苦手とする“腐女子”だった――。

 「入れ替わりもの」の歴史を振り返る時に絶対無視できないのが山中恒の児童文学『おれがあいつであいつがおれで』だ。本作のタイトルも(明らかに)この作品を下敷にしている。

 この『おれがあいつであいつがおれで』を映画化したのが大林宣彦監督の『転校生』。映画化にあたっては原作から大きなアレンジが加えられていて、それは登場人物の年齢が小学校6年生から、中学3年生へと引き上げられている点。思春期の鳥羽口から、思春期のど真ん中への変更。これ以降、「入れ替わりもの」は思春期ど真ん中のキャラクターたちが演じるというパターンが確立して、現在に至ることになった。本作もまた、そんな『転校生』の“子供たち”のひとつといえる。

 本作の趣向はタイトルの通り、オタクのテイストを盛り込んだところ。百合オタと腐女子、オタクとして共通するところ、趣味が相反するところが、ある種の「あるあるネタ」として楽しめるようになっている。

 では「入れ替わりもの」としての本作はどうなのか。これが実に正攻法なのである。
 「入れ替わりもの」のポイントは2つある。ひとつは「親バレをどう扱うか」。もうひとつは「男女の体の違いをどこまで描くか」。
 本作だと、保科のほうは両親が海外赴任という(ある意味定番の)設定だが、吉田のほうは母親が家にいる(父親は単身赴任)。この吉田の母親に、入れ替わりを明かすのか明かさないのか、もし明かすならどういうふうに明かすのか、というのは物語上のひとつのいポイントになる。本作はここを正面から正々堂々と描いてギャグにしている。

 そして、もうひとつの「男女の体の差」。こちらも本作は正面突破。ヒロインの保科を、とことん開放的な性格にしてすることで、実にあっけらかんと「異性の体になること」の戸惑いを描いている。なにしろ保科は、、吉田の体になった直後にその全裸の写真を撮ってメールで送ってくるようなノリのキャラクターなのである。こういうノアッパーなノリでくるむことで、保科の体が生理になり吉田が大慌てするエピソードもちゃんと描いている。(番外編では「金的蹴り」の痛みについても取り扱っている)。

 「入れ替わりもの」は、他人を知り、自分を知る物語だ。とすると吉田はラストに向けて何を知り、保科は何を知ることになるのか。そこが楽しみだ。
ひょんなことから身体が入れ替わってしまう吉田玲時と保科美鶴。

美鶴の姿で自分の家に帰宅してしまった玲時。お母さんに「どちらさま?」と問われ…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。





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