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【第9回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第9回】 天動のシンギュラリティ

 今回、2巻まで試し読みをしたのは『天動のシンギュラリティ』。アニメも放送中のSF小説『BEATLESS』とは、人間型ロボット、hIE(ヒューマノイド・インターフェースエレメンツ)が普及し、シンギュラリティ(技術的特異点)を超えた超高度AIが稼働をしているという世界観を共有している。

 本作の舞台となるのは東京湾上に敷設された海上都市(メガフロート)。主人公は、そこにある私立アクアブリッジ学園の生徒、天童カイト。彼は、黒いマントに身を包み、教室の中で「この世界に魔法は存在する!」と口走るような“厨ニ病”の残念なイケメンだ。

 物語は、そんなカイトが、新入生・香々地アイリスに一通の封書を渡すところから始まる。その手紙には「貴殿ヲ我ガ魔法ノ夜会ヘ招待スル」と書かれていた。

 この導入がインパクトがある。

 hIEが普及した社会をSFらしい手付きで語っていく『BEATLESS』と異なり、いきなり「魔法」である。一体どういう世界観なんだろうか、と思わせられる。だが、この“魔法”は単なるカイトの妄言ではなく、ちゃんと合理的な根拠に基づいたものなのだ。いってしまうと「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」を地でいくような設定が、本作のキモなのである。

 海上都市は、景観装飾技術(ホロプロジェクションマッピング)の実験として、あらゆるビルがホログラフで飾られている。この街では、目に見える景色や広告はすべてホロプロジェクションで投影されたものなのだ。
 だからhIE(動物ロボットの場合はaIEと呼ばれる)や乗り物などへのハッキングと、小型のホロプロジェクターを併せて使うと、あたかも町中で魔物と戦っているような光景を作り出すことができるのだ。カイトと同じ部活(「パドヴァ啓明魔導団」を名乗っている)に所属する箭内摩耶は、この“魔法の力”で「魔法少女戦士シンギュラハート」に変身したりもする(つまり彼女も若干残念なヒトなのであった)。

 こうして設定を押さえていくと、『BEATLESS』との世界観以外での共通点も見えてくる。
 『BEATLESS』では、hIEが人間そっくりであることが大きな意味を持っている。hIEは、人間にしか見えない存在であるにもかかわらず、そこに“心”はない。彼ら・彼女ら外部のコンピューターにある行動管理クラウドによって動いているだけなのである。この「見た目」と「実際」のギャップが、『BEATLESS』という物語の中核にあるのだ。

 一方。本作もまた「見た目」と「実際」のギャップが物語を駆動していく。こちらはホロプロジェクションで描き出された「目に見えている街」とそうではない「実際の街」の間にギャップがあるのだ。複雑すぎる地形に対し、ホロプロジェクションが対応しきれない結果、地図には載っていない(見ることのできない)路地や空き地が存在し、それらは「ほころび」といわれて本作を象徴する重要な舞台となっている。

 第2巻までではまだhIEそのものがドラマには絡んでこない(現時点で既刊7巻)。だが『BEATLESS』世界である以上、絶対に今後の展開でhIEは絡んでくるはずだ。そうなった時、海上都市が抱えるギャップ、hIEが抱えるギャップが重なるようにして物語が展開していくようになるのではないか。

 その時には「この世界に来るまでは、自分は異世界のお姫様だった」という第1巻での香々地アイリスのセリフの謎(ここにも「見た目」と「実際」が異なるというギャップが仕掛けてあるのだ)も解けるはずだ。
 
主人公・カイトは、黒いマントに身を包み、「この世界に魔法は存在する!」と高らかに(?)宣言する。

アイリスの意味深な言葉の謎は解けていくのか…?

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。









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