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【第10回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第10回】 あれよ星屑


 世評も髙く全7巻で完結した『あれよ星屑』。以前から気になったていたので、これを機にまず2巻まで手に取った。そこに描かれていたのは、半端に燃え残ってしまった2人の男の人生だった。。

 敗戦を迎え、焼け野原になった東京にひとりの復員兵がやってくる。名前は黒田門松。ヒゲヅラでクマのような門松は、偶然、軍隊時代の上官だった川島徳太郎と再会する。川島は、雑炊屋を営みながら、酒に溺れる日々を過ごしていた。故郷に待つ人がいないため、そのまま東京にいついてしまう門松。比較的あっけらかんとした門松に対し、上官だった川島の生き残ってしまったことへの屈託は深い。

「どこで命を捨てればお国の為 同胞の為になるか/無駄死にから逃げに逃げて 結果は皆くたばらせて俺だけ死に損なったんだ 他の死に損なった奴らが言うように『死んだ奴の分まで』とはどうしても思えねぇ」

 この言葉を受取るように第2巻は、昭和19年に中国大陸で2人が出会ったころのエピソードが展開される。
 戦中に青春時代を過ごしたある作家は、当時を回想して「自分が20歳を過ぎても生きていることが想像できなかった」と語っていた。川島も門松もそれと同じだ。本当なら終わっていたはずなのに、なぜか半端に燃え残ってしまった命。門松は、その半端な人生を持て余し(もともとエネルギーが過剰な男である)、川島は半端な人生に意味を見出しかねている。門松が川島を「班長」と呼んでしまうように、ふたりは、戦中でも戦後でもない中途半端な時間にたゆたわざるを得ないのだ。そんな2人が体現する刹那的なエネルギーと、ニヒリスティックな空気が、「時代」の空気を猛烈に伝えてくる。

 ふたりはそれぞれの切れ端となった人生の、その先をいかにして見つけ出すのか。続きが気になる導入だった。

 
復員兵・黒田門松は、東京で軍隊時代の上官だった川島徳太郎と再会する。

川島は黒田に金を渡し、故郷に帰るよう諭すのだが…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。










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