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【第11回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第11回】 地底旅行


 ジュール・ヴェルヌが1864年に発表したSF小説『Voyage au centre de la terre』。『地底旅行』というタイトルで知られているその小説を、タイトルもそのままに倉薗紀彦が漫画化したのが本作だ。

 アクセル・リーデンブロックは、伯父である鉱物学教授オットー・リーデンブロックから、一片の羊皮紙を見せられる。そこにはルーン文字による暗号が描かれていた。2人は暗号解読に取り組み、アクセルの発見をきっかけに、そこに書かれた真実を知る。それは16世紀の錬金術師アルネ・サクヌッセンムが書き残したもので、地中世界への入り口を示したものだった。

 かくしてオットーとアクセルはアイスランドへと向かう。そして、アイスランド人の案内人ハンスとともに、暗号の指し示す火山の火口から地中深くへと降りていく。3人は、さまざまな苦難を乗り越え、ついには広大な地底海に到達する。そこは巨大なキノコが生い茂り、既に絶滅した古生物も存在する世界だった。

 150年以上前の原作だけに、映画やアニメ化するのであれば、どこかに現代的というか、より作品をポップにするアレンジを求められるのではないかと思う(たとえばアメリカ映画『センター・オブ・ジ・アース』は原作のストーリーを踏まえつつも、ほどよくポップにアレンジされている)。

 だが本作は、漫画という“裾野が広いメディア”であるが故に、余計なアレンジは抑えられ、クラシックな冒険ものとして真っ当に描かれている。

 では、本作の漫画としての魅力はどこにあるのか。それは登場人物と演出だ。

 本作は主要登場人物が3人しかいない。だからこそそこを魅力的に描かないと、先を読もうという気持ちにならない。その点、オットーのマッドサイエンティストぶりや意志の強さ、アクセルの普段はナイーブな様子と、肝が据わった時の凛々しさの対比などが、しっかり描き出されていて引き込まれる。そしてここに無口なハンスの頼もしさを加えた、絶妙な登場人物のアンサンブルが本作の魅力的な“入り口”になっている。

 そしてそんな登場人物たちが追い込まれた時の演出がいい。第1巻では水不足になりながらもなお先に進もうとするオットーと、引き返すことを主張するアクセルが対立する。水不足・食糧不足は古典的な冒険ものには欠かせない要素。この定番のエピソードが、オットーの狂気を孕んだ表情と、アクセルの怒りのアップが組み合わさることで、メリハリのついた“見せ場”になっている。あるいは第2巻ではアクセルが道に迷い完全に孤立する。これも出来事としてはシンプルだが、こちらはアクセルの感じた死の恐怖が漆黒の背景を巧みに使うことで表現されている。

 2015年から連載され、全4巻で完結している本作。原作、キャラクター、演出がうまく噛み合い、近作なのに“古典”といった雰囲気がある。


 
この3人で地底へと歩みを進めていく。

水がなくなるという危機を3人はどう脱するのか…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。











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