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【第12回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第12回】 光圀伝


 ひとの一生は何で計ることができるのか。 『光圀伝』はそれを「人の死」で計る。

 本作は、隠居した西山荘で回想録「義公遺事」をしたためている光圀の姿に、このようにモノロークが重ねられて開幕する。
「余はここに隠居するまでに四十八人の生命を殺めた/ここにその一人一人を書くことになるかどうかはらからない/重要なのは四十九人目となった男である」

 そして次節は、元禄7年(1694年)に遡り、67歳の光圀が、鮮やかに重臣の藤井紋太夫を刺殺するシーンを描く。この紋太夫こそ、物語の鍵を握る49人目である。紋大夫が殺された理由は諸説あるようだが、本作は「この理由を語るためには、自らの人生を詳らかにせねばならない」――と、幼い日の光圀(お長または子龍と呼ばれていた)へとさらに遡っていく。

 物語の縦軸となるのは、三男でありながら水戸徳川の跡継ぎに命じられた光圀の恍惚と不安。そこに大きく影を落とすのが、父・徳川頼房であり、兄・竹丸である。

 本作の光圀は、ギラギラしている。父に認められるためにあがく。青年時代にはなぜ自分が長子に選ばれたのかという重圧に負け、傾奇者として憂さ晴らしに明け暮れる。いつも過剰がエネルギーが光圀を突き動かしている。
 その姿は、TV時代劇の代名詞的存在である『水戸黄門』における光圀像はもちろん、日本史の教科書の中の姿(たとえば「大日本史」の編纂を命じたこと)やトリビアで語られる姿(日本で最初にラーメンを食べたこと)からは想像もつかない生々しさがある。

 本作は、冲方丁の同名小説を三宅乱丈がコミカライズしたもの。この三宅の絵がとても魅力的だ。キャラクターに艶があり、なにより目に力がある。光圀など、なにかあればきっと“やる”人間の目をしている。また、第2巻で登場する老いた宮本武蔵のオーラもすごい。宮本武蔵は、辻斬りで“一人目”を殺した光圀に向かい「お前はわしに似ている」と言い放つ。つまり、光圀にとって武蔵が、武蔵にとっての沢庵和尚のような位置にいることが示されるのが2巻の山場なのだ。

 まだ若い光圀はどのように年令を重ね、どういう理由で四十余人を殺すことになるのか。三宅がそれをどのような筆致で描き出すのか。それは読者の皆さんの目で確かめてほしい。

 
幼いころから世継ぎであることを望み、自覚していた光圀。

宮本武蔵との出会いで光圀の心に宿ったものは…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。












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