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【第13回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第13回】 めしあげ~明治陸軍糧食物語~


 「めしあげ」は「飯上げ」と書き、炊事場で調理された食缶入りの兵食を運び出す軍隊用語だという。簡にして要を得たこのタイトルの通り、本作は食事という背骨を通しながら、日露戦争当時の陸軍の様子を描き出そうというものだ。

 貧しさのあまり食べ物を盗んだ青年・千歳が陸軍に入隊することを選んだのは、兵舎から出た残飯を食べその味に打ちのめされたからだ。一日三食べられれる。しかも、うまい。そんな極めて実務的な理由で千歳は、歩兵第一連隊に志願入隊する。

 千歳という主人公は、いつもメシのことばかり考えている。つまりは極めて実際的な人間だ。だから出征先の中国で、缶詰と物々交換で、中国人の農家から食料品をわけてもらうなんていう任務を要領よくこなす。ロシア軍との激戦となった南山戦で敵の散兵壕に攻め入った時も、第一声は「水筒をよこせ」だ。生きるために食う。食って戦う。一兵卒である千歳にとっては、それが全てなのだ。そんな千歳の軍隊生活は映画『拝啓天皇陛下様』(1963)の主人公・山田正助にも通じるものがある(千歳は字が書けず、山田もカタカナしか書けないという似た部分がある)。
 しかし、戦争というのは実際的なばかりでできるものではない。兵士を動かすには戦略が必要だし、戦略は政治の延長線上にある。そこはある種の哲学が必要となる領域だ。

 本作には千歳や第一連隊の仲間たちだけでなく、歴史上の人物も姿を見せる。それが千歳にはない“哲学”の存在を垣間見させる。

 たとえば日露戦争を視察に来た若き日のマッカーサーが登場し、千歳とトウモロコシを分け合う。また、北極探検を志している白瀬矗も第8師団衛生予備廠長として千歳の前に現れ、自らの夢を語る。特に白瀬の「北極」という夢は、千歳の心に大きく印象付けられることになる。そこで千歳は、自分のような「今日のメシが食えること」とはまた異なる“動機”が世の中にはあることを知るのだ。

 2巻で歩兵第一連隊は、第三軍に編入される。第三軍の司令官はあの乃木希典大将である。乃木の指揮下で旅順攻略に挑むことになる千歳たち。毀誉褒貶もある乃木の指揮官としての“哲学”を、一兵卒の千歳の視線からどのように描くことになるのか。そして、激しさを増す戦いの中で、千歳は「今日のメシが食えること」の先へ踏み出すのかどうか。
 第2巻は「第三軍の任務である旅順要塞攻略の長く果てしない戦いの幕開けであった――」というナレーションで次巻に続くとなっている。


 
兵舎から出た残飯を口にし、その美味しさに感動する千歳。
 

千歳からトウモロコシをもらったマッカーサーは、かわりにチョコレートを渡す。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。













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