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【第15回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第15回】 ニーチェ先生~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~


 『ニーチェ先生』というので、『鈴木先生』みたいなクセのある先生の出てくる学園ものか、あるいは(FG●みたいに改めて擬人化された)哲学者たちが出てくる異能バトルものかと思って読んでみると、まさか(?)のコンビニが舞台だった。1巻の表紙でニーチェ先生が手にしたバーコードリーダーが宝具に見えたのは目の錯覚だったようだ。よく読めばサブタイトルとして「コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた」とジャック・ヒギンズの小説のような一文が添えられている。

 というわけで本作は、仁井(にい)くんという非常に個性的な人物を、主人公である就職浪人生・松駒の視点から描いていくギャグマンガである。そして1巻冒頭でさっそく仁井くんは「お客様は神様だろうが」とゴネる客に「神は死んだ」とあの名セリフをかますのである。ちなみにニーチェっぽい部分は、ここぐらいだ。

 コンビニマンガなので、コンビニあるある的なネタは多い。松駒が女性客に、おでんのおすすめを尋ねられてつくね串を薦めると、「じゃあ、白滝と大根をください!」と笑顔で返されるエピソードなど、とてもリアリティがあって、自分でもコンビニバイトしているような気分(≒ダメージ)を味わうことができる。

 だが「あるある」だけだったら、本作がここまで話題作になることはなかっただろう(2016年にはドラマ化されている)。それはやはり仁井くんのキャラの立ちっぷりがあればこそ。しかし、彼のプライベートは徹底してベールに包まれている。セリフなどの断片から分かるのは「仏教学部在籍」「写経が日課」「般若心経を叫ぶバンドのメンバー」をやっているといったことばかりである。

 むしろそんなプロフィールよりも、仁井くんのキャラを立てているのは、各エピソードの終わり際に残す彼の一言である。
「僕の1時間を3桁で売り渡すわけにいかなかったので」
「煙草の銘柄を間違えただけで逆上する方は乳首依存患者として扱っています」
「神は死んだと思っていますし、クリスマスは邪教徒の奇祭として扱っています」

 どういう文脈で使われたかは本作で確認してほしい。だが、こうした仁井くんらしいセリフに共通するのは、実はかなりの部分が、読者の“本音”の代弁でになっているということだ。普通の人ならいいづらい本音を、ニーチェという皮を被ることで、すっと差し出す仁井くん。それはなかなかできることではない。そここそが「先生」とあだ名されるだけの存在感につながっているのだ。


 
1巻冒頭で飛び出した、さとり世代の大型新人・仁井くんの名セリフ


コンビニで、こんなお客になってしまったことありませんか?

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。















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