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【第19回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第19回】 じしょへん

  漫画のおもしろさは、細部にある。

 『じしょへん』は漢和辞典「現字選」の編集部でその改訂に取り組む、若手編集者・王子なつきの物語だ。
 辞書編集というと国語辞典編集を題材にした小説『舟を編む』という先行作がある。同作はアニメ化、実写映画化、コミカライズもされたヒット作。だから、似たような舞台を扱った本作は、よくもわるくも“二番手”に見えなくもない。
 でも、そんな先入観を覆すだけの細部のよさが本作にある。「概略」にまとめられないだけの豊かな細部が作品を魅力的に見せている。

 たとえば第2話の各キャラクターの個性の魅せ方。「現字選」編集部の主要メンバーが、紹介される時に、そこで使われるのが「ジュースが半分入ったコップ」を使った心理クイズ。TVで放送されたこのクイズを入り口にして、改訂「現字選」刊行まで残り4年という時間を浮かび上がらせる。辞書刊行まで「あと4年しかない」のか「まだ4年ある」なのか。各キャラクターのクイズへの回答と仕事への姿勢を重ね合わせて描きつつ、辞書編さんがいかに長期にわたる仕事かを印象づける。

 第7話では、王子の同僚・岸の娘まどかがいい“仕事”をしている。仕事で失敗した王子は、岸に誘われ、岸の自宅で夕食を食べることになる。そこに未就学のまどかが姿を見せ、遊んでいるうちに、彼女は「月」と書かれた習字を得意げに見せてくる。「まどかちゃんは、漢字が好き?」と聞く王子に、まどかは「かっこいい」と応える。そして王子は自分が漢字を覚え始めたころの感動を思い出す。

 第2話のジュースも第7話のまどかの習字も、読者にイメージしやすくて、かつ作品の本質としっかり結びついている。ベタといえばベタだが、底が浅いわけではないし、エピソードがこれみよがしに目立つことなく、展開の中に自然に収まっているので、うまくノセられてしまう。そして気がつくと『じしょへん』の世界にすっかり馴染んでしまっている。

 このあたりの“漫画のうまさ”から生まれる魅力は、あらすじでよんでもなかなか伝わらないはずだ。実際に手にとって、この細部のよさを感じ取ってみてほしい。
 


 
「まだ半分もある」「もう半分しかない」さてあなたはどっち派?
 


同僚の娘・まどかは、「月」と書いたお習字を得意気に見せる。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。



















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