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【第21回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第21回】 マンダリン・ジプシーキャットの籠城

 女ばかりが存在する未来。人類は繁殖をコントロールするようになり、普通の人々は生殖をする必要がなくなっていた。それは町による、“生むことができる限られた人種”を強制的に管理することによって生まれたディストピアだった。そんな町の側を流れる大河の向こうにスラムがあり、そこには町から逃げてきた男・麗峰と、男前な女・佐奈田がいた。佐奈田は、麗峰を通じて、この世界の輪郭がどのようにできているかを知ることになる。

 ひとによったら、本作を読んでアニメ『少女革命ウテナ』を思い出す人もいるかもしれない。『ウテナ』では、世界を決定づけるシステムの中心に薔薇の花嫁という少女が存在していた。彼女なくしてシステムが動かないという点で、彼女はシステムの虜でもある。本作で薔薇の花嫁の位置にいるのが、麗峰になる。美しく謎を秘めていて、誰もが好意を抱かずにはいられない男。だが、町は生殖を管理するシステムを維持するために麗峰を攫っていく。佐奈田たちは、麗峰を救おうとするが、それはそのままシステムの解体を意味することになる。

 といっても本作はガチガチのジェンダーSFというわけではない。むしろ本作はある種の“寓話”や“おとぎ話”として読んだほうがしっくりくる(そしてその点も『ウテナ』と親しい感じがする)。

 本作をおとぎ話になぞらえるなら、麗峰はお姫様で、佐奈田や彼女の仲間の絵島たちはさしずめ姫を取り囲む七人の小人といった立ち位置だろうか。物語序盤に登場する、佐奈田とその仲間たちが、皿に残った最後の餃子に一斉に箸を伸ばす一コマは、麗峰を中心に置いた彼女たちの関係をひと目で描き出していてカッコいい。箸を銃に置き換えたらクエンティン・タランティーノの映画に出てきそうな、そんなノリのあるシーンだった。

 一方で麗峰は、三蔵という『眠れる森の美女』を目覚めさせる王子役も担っている。時に姫であり時に王子である、麗峰の二重性が本作の味わいを複雑にしている。だからこそ姫の側にいる男前な女、佐奈田と、王子から遠く離れた情の深い女、三蔵がついに相まみえるシーンが本作のクライマックスになるのだ。

 当欄では麗峰を中心に作品を紹介をしたが、この作品の主人公は佐奈田。作者の鳥飼茜は、佐奈田という男前な主人公を描きたかったとインタビューで語っているが、それはとてもよく伝わってくる。

 
一つの餃子に一斉に箸を伸ばす佐奈田の仲間たち


佐奈田に背後を取られ名前を名乗る三蔵だが…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。





















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