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【第25回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第25回】 夢中さ、きみに。

 どこかとらえどころのない高校生・林を中心にした4編と、陰気な高校生・二階堂とその前の席の目高の関係を描いた3編(+おまけ)の合計7編を収録。いずれも著者のWEBや同人誌に発表された作品だ。
 各編とも、学校生活で起きたささやかな出来事が扱われていて、静かだけれど、どこかユーモラスな空気が漂う。

 たとえば最初に収録されている「かわいい人」は、体育祭の借り物競争で「かわいい人」として林くんを選んでしまった(この学校は中高一貫の男子校なのだ)江間が語り手。体育祭以来、江間に「僕かわいい?」と絡んでくるようになった林。
言葉にすると、林が小悪魔っぽい存在に思えるかもしれないが、実際には「考えが読めない」「若干うざい」という雰囲気なのだ。このエピソードは、そんな不思議な空気を重ねていって、クスリと笑いたくなるラストにふんわりと着地する。

 あるいはWEBで話題を集めた「うしろの二階堂」。この二階堂は関わるとさまざまな不幸に見舞われるという噂すら流れている、いわば“陰キャ中の陰キャ”。そんな二階堂の前の席になってしまった目高は偶然、中学校時代の二階堂の様子を知ってしまう。こちらで転機になるのは、二階堂がプリントを受け取る時に、そのプリントで目高が指を切ってしまうという本当にささやかな“事件”だ。

 この作品のこの空気のよさは、作品の“静かさ”から生まれている。そもそも擬音が描かれることが少なく、出てくる時も吹き出しの中に収まっていたりする。またキャラクターのアップが少なく、ほとんどのコマがバストショットかそれよりも引いた絵になっているのも、画面に客観的な距離感を生んでいて、それも“静かさ”の雰囲気に貢献している。

 ご存知の通り、学校という空間はそもそも騒がしくてごちゃごちゃしている。そんな学校生活にもかかわらず、本作はそんなふうにとても静かに描かれている。それは、騒がしい学校生活の“隙間”にある静かさを描いているからだ。もしかすると自分の学園生活にも、耳をすませばこんな“静かな隙間”が見つけられたのかもしれない。各話のオチにクスリと笑った後で、そんな不思議な読後感が残る1冊だ。

 
借り物競争で、お題「かわいい人」を引いてしまった江間は…。


うしろの席の二階堂。皆から嫌われている彼だが実は…。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。

























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