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【第28回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第28回】 恋する寄生虫

 私の気持ちは本当に私のものなのか。

 失業中の青年・高坂賢吾は、弱みを握られ半ば強引に不登校の少女・佐薙ひじりと友達になることを命じられる。高坂は強迫性障害の不潔恐怖症。そして佐薙は同じく強迫性障害で視線恐怖症。互いにそれを知った2人は、社会復帰に向けてお互いに協力してリハビリを始める。やがて、2人は恋に落ちる。だが、そんな穏やかな日々は、思わぬ事実によって覆されることになる。

 2人の不安神経症は、脳に寄生した新種の寄生虫によるものだった。そして、2人が惹かれ合うその気持もまた<虫>によって生み出されたものだというのだ。治療をすれば社会に馴染むことはできるが、この恋は消えてしまう。そもそも<虫>に踊らされるようにして人を好きになって、それは愛なのだろうか……。

 三秋縋の小説をホタテユウキが漫画化した本作。セリフが多くとても静かな内容だが、大コマや見開きを効果的に使うことで、読者の感情を掻き立てるように物語を展開している。ちょうど第1巻のラストで、2人の症状は<虫>のせいという事実が発覚し、第2巻は<虫>によってどんな症状が起こるかが他の患者のエピソードとして語られ、治療をするかどうかをめぐって高坂と佐薙の意見が分かれるところがクライマックスとなる。

 第2巻のクライマックスで、佐薙は高坂と一緒にコンテナに閉じこもる。そして高坂に「<虫>の治療をしない」と約束をさせようとする。この暗闇の中のシーンが圧巻だ。ベタだけでなく、カケアミと斜線で表現された闇は、どこか2人にまとわりつくような質感があってとても“重い”。その重い闇の中で、2人は交わらない言葉を重ねる。そこに佐薙の切実さが強く滲んでいる。

 なにをもって「私の気持ち」とするのか。それは「私とは何者か」を考えることと同じだ。完結となる第3巻では、佐薙も高坂もその問いに向かい合うはずだ。

 
不登校の少女・佐薙と友達になろうとする高坂。


2人が閉じこもったコンテナは暗く、その雰囲気は重苦しい。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。




























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