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【第29回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第29回】 由良COLORS

 兵庫県淡路島の最南東に位置する漁師町・由良。タチウオとタマネギぐらいしか誇るもののないその町で、うだうだと暮らしている“あどにゃーら”(由良弁でアホたち)のバカバカしくも楽しげな毎日を描くのが本作だ。

 主人公のカンミ(宮下和美)は由良生まれ、由良育ちの23歳。保育所からの幼馴染、タカラ(プロレスラー志望6年目)、ヨシ(ギャル男)、タケ(ニート3年目)といつもつるんで遊んでいる。カンミは、タカラの実家の自動車工場で働いてはいるが、気分はまだ高校生あたりと似たようなもの。4人で人生ゲームで暇をつぶしたり、頭を針金ハンガーで挟んで遊んだり。時には恋もケンカもするけれど、それもまた彼らを成長させるわけではない。カンミたちは23歳だけれど、まだまだモラトリアムの中にいるのだ。

 モラトリアムの中にいるのはカンミたちだけではない。「なんの大きな成功もなければ/なんの大きな失敗もない」と評され、どこをみても、子供の頃からおなじみのクソジジイとクソババアしかいない、と語られる由良という町も、大きな“モラトリアム”の中にある存在だ。クソジジイ、クソババアだっていつかはいなくなるだろう。でも、作中の由良には、そんな“いつか”が来るまでの間の、少しノスタルジックな停滞した時間が流れているのだ。でもだからこそ由良はカンミたちにとって居心地がいい、(悪態をつきながらも)愛すべき場所なのだ。この気持は、田舎に育った人――つまり日本人の大半だ――ならきっと多くの人が、多少の反発心も含めて共有できるはずだ。ギャグタッチのシーンも楽しい本作だが、こういう“田舎でそのまま大人になってしまった気分”がリアルに描かれていることが本作をピリッと引き締めている。

 KADOKAWAから全6巻で発売中の「完全版」は、旧版の時に作者が自費出版でのみ発表したエピソードも含めて、ラストまで単行本化さたもの。由良に流れる停滞した時間と、カンミたちのモラトリアムは、ずっと重なり合ったままなのか、それともその幸福な関係に“終わり”が来るのか。「完全版」だからこそ読めるラストも注目したい。
保育所からずーっと一緒。由良生まれ由良育ちの4人。


ノスタルジックな雰囲気がなんとも心地いい。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。





























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