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【第32回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記『戦争は女の顔をしていない』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第32回】 戦争は女の顔をしていない

『戦争は女の顔をしていない』は、ジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが1984年に発表したノンフィクションだ。独ソ戦に従軍した女性たち500人以上に取材した本書は、完成後も2年間は出版が許されず、ペレストロイカ後にようやく出版が許される、という経緯で世に出ることになった。スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは同書を始めとするノンフィクションの仕事が認められ、2015年にノーベル文学賞を受賞している。そして小梅けいとによる同書のコミカライズが今回取り上げる本作となる。。

 漫画版は原作の中から印象的なエピソードを選び出して漫画化している。例えば第1話は洗濯部隊の話題。臭い洗濯石鹸を使い、重い洗濯物で脱腸になったり、、手がかぶれたり爪が抜けたりしながら戦場で洗濯物を洗い続けた女性たちの日々。そこでは戦闘だけが“戦争”でないことがまざまざと示され、歴史からこぼれ落ちてしまう女性たちの声をすくい取ろうとする原作の狙いがよく伝わる第1話になっていた。

 原作の精神に忠実な本作だが、やはり原作と漫画では読後の感触は異なる。それはどちらがよいとか悪いとかではなく、メディアの違いから生まれているものだ。

 原作は三点リーダー(…)が多様されている。この「…」によって語り手が思索したり、言いあぐねたり、絶句した時の“間”が表現されている。だから原作を読むと、膨大な言葉の向こうにある沈黙がずっしりと迫ってくる。

 漫画も、語り手の言葉は原作そのままに生かしている。だがその言葉は、漫画にされる過程で「ナレーション」「心の中の声」「実際の台詞」に振り分けられて、それぞれ違う形の吹き出しに入れられてページの中に配置されている。こうした演出が施されることで、実際に言葉が発せられた時の感情の強さが、よりダイレクトに感じられるようになっている。

 しかもそこに絵が加わる。例えば第7話でローラ・アフメートワが語る「戦争で一番恐ろしかったのは、男物のパンツをはいていることだよ」というエピソード。原作は「どうして笑わないのさ? 泣いてるのかい? どうして?」というローラの言葉で終わる。

 漫画もこのローラの台詞はまったく同じだが、ローラが、泣いている取材者の肩に触れる様子が描かれている。それによりここはより人間の体温が感じられるシーンとなっていた。

 語りの中の沈黙が読者に問いかけてくる原作。それに対し、肉声(台詞)と肉体(絵)によって読者の感情を直接揺さぶってくるのが本作なのだ。

 
臭い洗濯石鹸で手がかぶれ、爪は抜ける…。


戦争で一番恐ろしいのは、男物のパンツを履いていることだと語るローラ。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。
































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