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【第34回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記『予知視』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第34回】 予知視

 昔話に出てくる“いいおじいさん”と“いじわるじいさん”の運命を分けたものはなにか。それはお金持ちになりたいという我欲の有無だ。我欲を振り回せば不幸になり、状況をまっすぐ受け入れていけば幸せになる。『予知視』は、そんな欲望と自分のあり方をめぐる物語だ。

 大学生の照彦は、集中すると数秒先の未来のビジョンを見ることができる“予知視”の持ち主だ。この力で照彦は未来の可能性を探り、ベストの選択肢を選んできた。とはいっても見えるのは数秒先だけだから、せいぜいがジャンケンに勝つとか、スクラッチの宝くじをを当てるとか、女性との会話を先読みして会話を盛り上げるとか、その程度の役得ぐらいしか使いみちはない。

 物語は照彦がこの予知視を使って、オフ会で気になる女の子を“お持ち帰り”するところから始まる。ささいなことから口論になる照彦と女。照彦が彼女を突き飛ばした結果、彼女はトラックにひき逃げされて死んでしまう。自分に都合のいい未来を選ぶための予知視だったはずなのに、この瞬間からその歯車が狂い始める。

 物語はここから、何故照彦は予知視を使えるのか、という方向へ進んでいく。そこでクローズアップされるのは、照彦の高校時代の彼女、奈美の存在だ。冒頭からショッキングな事故が続くので、映画『ファイナル・デスティネーション』のような死の運命をめぐる物語かと思いきや、物語はどんどんと照彦の内面へと踏み込んで、彼自身に自分の人生の点検を迫っていく。

 人間はひとつの人生しか歩めない。だからこそ「未来を知った上で運命を選択できる」という能力に憧れを感じずにはいられない。そして、もうひとつの運命を考える時、そこにはモテたいとか楽して儲けたい、面倒なことはやりすごしたいといった自分の欲望が無意識のうちに投影されることになる。そういう意味で照彦は、読者の誰でもありうる主人公なのだ。そして運命の歯車が狂った結果、照彦はそうした自分の我欲と向き合わざるを得なくなるのだ。

 “いじわるじいさん
”の道を歩んでいた照彦は、物語の中でどう変わっていくのか。バイオレンスなシーンも多いけれど、本作はその点で案外、オーソドックスな物語なのである。

相手にどう言えば上手くいくか、一瞬先を読んで返答していく主人公・照彦。


自分を守るためか、本当のことが言えない。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。


































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