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【第35回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記『狼領主のお嬢様』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第35回】 狼領主のお嬢様

 彼女が背負ったのは「不作為の罪」。自分の父や祖父が領民にとってどんな領主かを考えることもせず、ただお嬢様として“幸福”に暮らしていたこと。そして悪逆な領主たちが革命で滅ぼされる時、彼女もまた自らのその罪を引き受け、断頭台へと消えた。

 彼が背負ったのは「正しくあろうとして間違ったこと」。領主の屋敷に若き使用人として入り込んだ彼は、革命の立役者として大きな役割を果たし、革命後は新たな領主となった。民衆は幸福になったが、そのために彼は、心から愛した領主のお嬢様が断頭台へと自ら進んでいくことを受け入れてしまった。

 そして革命から15年が経過した。

 領主の娘は、前世の記憶を抱えたまた平民の娘シャーリーとして転生していた。一方、新たな領主カイドは、現在も独り身のまま、領民の幸福のために身を粉にして働いている。物語は、養護院で育ったシャーリーは、カイドの屋敷でメイドとして働くことになったことから始まる。

 平和になった世の中で、穏やかな“2度目の恋”が始まると思いきや、物語はそうは進まない。

 前世の記憶を引き継いだシャーリーは、生まれ変わっても「不作為の罪」を背負っている。平和になった街の風景も、彼女にとって自分の父たちの統治が間違っていたことの証にしかほかならない。また、カイドが領主の仕事に打ち込むのは、革命で流れた血に対して責任を持とうとしているからだ。

 シャーリーもカイドも思いはひとつ。それは屋敷の一角にこっそり設けられた、前領主たちの墓所を2人が訪れるシーンでよくわかる。だが、2人を隔てる「過去」という壁はあまりに強固で、2人ともそこをなかなか越えられない。自分の運命に自覚的だからこそ、2人は運命に縛られているのだ。

 2人はどのように運命を乗り越えるのか。その道筋はまだ見えない。だからこそ読者の心に、じれったくも切ない感情を湧き上がらせる。そして第2巻では、屋敷でカイドを狙った毒殺事件が起き、事態は思わぬ方向へと転がりだす。2人は自ら背負った運命の先に、どのような新たな人生を掴むのだろうか。


カイドの屋敷でメイドとして働き始めたシャーリー。再び出会ってしまった2人。


前領主一族の墓所が、屋敷の片隅にこっそり設けられていた。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。



































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