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【第38回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記『DOG SIGNAL』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第38回】 DOG SIGNAL

 犬は人間にとってパートナーである、といわれる。だがそれ以上に犬は、飼い主の姿を写す“鏡”である。犬は自らの身を通じて飼い主に“今の姿”を示し、時に“あるべき姿”を示唆する。それがドッグトレーナーをテーマにした本作が描く、犬と人間の関係だ。人間は犬との関係を通じて自らを顧みることになる。

 BRIDGE COMICS
は「お仕事もの」に力を入れているレーベルだから、本書にも犬のトレーニングのノウハウがいろいろ盛り込まれている。そこで大事なのは、物語を通じて描かれる「トレーニング」が、犬をしつけるだけのものではないということだ、むしろ作中では、人間の側を指導するエピソードのほうが多い。ここから、犬は“飼い主の姿を写す鏡”という本質が浮かび上がってくる。

 物語を進行させるのは、フラれた元カノから犬を押し付けられた青年・佐村未祐。犬のことをまったく知らない佐村が、ピンチに陥ったところに、ドッグトレーナの丹羽眞一郎が現れる。丹羽は、佐村の犬の扱いがいかになっていないかを体験させるため、佐村のクビにリードをつけ四つん這いにさせて、犬の気持ちを体感させる。

 そんな極端な“指導”を受けたにも関わらず、佐村は丹羽のもとで働くことを決める。だが丹羽のドッグトレーニングの店は休業状態。佐村は、やる気のない丹羽をせっついて、お店を盛り上げようとしていく。そして、そこにさまざまなトラブルを抱えた犬と飼い主が訪れることになる。

 本作では「犬は人間の気分に影響を受ける」「人間が矛盾する指示を出すと犬は混乱する」といった事実が描かれる。トラブルを抱えて丹羽のところに持ち込まれる犬は、犬が悪いというよりも、飼い主に翻弄されて混乱状態にあるのだ。だから飼い主をまずトレーニングすることが、犬の行動を安定させることにつながる。犬にとって飼い主は世界観。その“世界”が揺らいでは、犬も安定することができないのである。つまり犬を考えるということは飼い主を考えることであり、飼い主を考えるということは犬を考えるということなのだ。本作はその部分を、丁寧に描いていく。

 実は本書を読んでいると、本書が描く犬と人間の関係は、実は人間同士のコミュニケーションにも当てはまることが多いことに気付かされる。職場にせよ子育てにせよ、自分が「世界観」を演じなくてはならないことは多い。そして「世界」がブレて困るのは、犬だけでなく、部下でも子供でも変わらないのだ。そう考えた時、犬はやはり人間にとって時に鏡であることを通じて、“教師”の役割を果たすパートナーなのである。

 

犬のリードを付けられた主人公・佐村。はたして犬の気持ちがわかるのか⁉


人間の微妙な気持ちの揺れが、犬に影響を与えてしまう。
 
 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。






































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