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【第41回】藤津亮太 漫画試し読み放浪記『死んだ彼氏の脳味噌の話』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第41回】 死んだ彼氏の脳味噌の話

『死んだ彼氏の脳味噌の話』は、ひとことでいうと「愛」をめぐる短編集だ。しかし「愛」といっても、甘くハッピーな物語とはほど遠い。ここに描かれた物語はとても「苦い」。ここに描かれた「愛」は、人間がギリギリの状況に置かれた時、最後に手のひらの中に残っている類のものだ。それは冷静に考えると、大海の中で掴んだ藁のようなものかもしれない。でも、それが手のひらの中にあることで、人はなんとか自分を支えることができる。

 例えば表題作はこんな物語だ。

 恋人イクトが事故で死んでしまい、悲しむマリコ。そんな彼女のもとにひとつの荷物が届けられる。それはイクトの脳味噌だった。事故で死んだものの脳死に至っていなかったイクトの脳は、体から切り離され、脳だけの状態で生きていたのである。イクトは生前、「ブレブレブレイン」という会社と契約しており、自分の脳が生き残った場合、マリコのもとに配達するように手配をしていたのだった。

 培養液の中で生きているイクトの脳。担当者の説明に応じてマリコが、携帯にアプリをダウンロードすると、そこにはカメラを通じて周囲のことを知ったイクトの感情が通知される。ただし現在はβ版のため、通知される感情は「うれしい」「かなしい」の2つだけ。こうしてマリコはイクトとの“同居”を始める。それまであった2人の「愛」は果たしてそのままでいることができるのか。

 設定はSFだが、この短編の狙いどころは「脳だけになって意識がある人間は果たして“生きている”といえるのか」といった部分にはない。むしろここで展開されるドラマとしては「死んだはずが幽霊になって現れた恋人」をめぐる物語に近い。「脳だけ生きている」という設定は、死というギリギリの状況の中で最後に人の心に浮かぶものは何か、ということを描くための仕掛けとして使われているのだ。本書に収められた8本の短編のうち、5作が「死」を取り扱っていることからも、本書が描こうとしたものがどのような「愛」なのかはよくわかる。

 死という「苦味」の中にゆっくりと浮かび上がる「愛」。そんな愛の輪郭を確認することが、本書の目指すところなのだ。


彼氏の死を悲しむ主人公・マリコのもとに届いたのは、なんと彼氏の脳味噌。


最初はうまくやっていた2人だが……。
 
 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。









































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