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【コラム】自意識一人相撲からいかにして脱することができるのか。『ブスに花束を。』




新作・旧作、注目作に話題作。いろいろ気になるあの作品を、ちょっとだけ試し読み。そんな調子でマンガの世界を放浪していきます。
【第45回】 ブスに花束を。


  その時代や地域の文化を反映した「美意識」があり、そこから人の顔の美醜という感覚も生まれてくる。だから時とところが変われば美醜の基準も大きく変わってくる。……ということは頭でわかっていても、自分が生きている“いま・ここ”から簡単に逃れることができないのもまた事実。まして思春期ともなれば、世間の感覚が自分の自意識に食い込んでくるのを拒むのはなかなか難しい。

 だから『ブスに花束を。』は、勢い自意識をめぐる物語になる。

 主人公は、自らをブスと自虐する高校1年生の田端花。確かに、丸顔、ぽっちゃりめの体型、三白眼と、漫画のキャラクターとしては“ブス”の記号を取り入れて描かれているのは確かだ。 

 毎朝、教室の花を交換している彼女は、ある日、花を髪に挿して少し気取った気分に浸っていた。そこにたまたま早く登校してきたクラス1のリア充イケメンである上野陽介に、その姿をみられてしまう花。

 以前から教室の花を替えている人が誰なのかを気にしていた陽介。それが花だと知り、そこから2人の距離はなんとなく近づいていく。しかし花の意識は「自分がブスだから」というところからなかなか浮上せず、漫画はそんな彼女の自意識一人相撲をコミカルに描いていく。

 

▲主人公・花は、丸顔にぽっちゃり体型の地味キャラ。

▲誰にも見られないと思い、髪に花を挿すが…。

 本作のおもしろいのは、そんな自意識一人相撲をとっているのが花だけではないところだ。

 まずひとりは中学時代は“陰キャ”だったがそれを黒歴史化して高校デビューを果たした新橋努。モテたくてしょうがない努は、自分を“陽キャ”に見せたうという自意識にいつも振り回されている。

 そしてもうひとりは美少女の鶯谷すみれ。彼女は自分のルックスに自信があり、、陽介のことを気にかけている。にもかかわらず、自分より地味な花と陽介の距離が近いことに納得がいかない。花に接近して妨害を試みるが、「外面はよく見せたい」という自意識が邪魔をして、妨害のつもりがまるで2人を応援してしまうような結果になってしまう。

▲美少女・すみれは、憧れの陽介と花の急接近が気になる。

▲中学時代の自分を封印し、高校デビューした努。

 美醜があるとしても、それを理由に世間から「しかるべき振る舞い」を押し付けられる理由などない。そこから解放されるためには、自分の自意識の中に食い込んでいる「しかるべき振る舞い」を解除した上で、世間と対峙する必要がある。果たして3人は自意識一人相撲からいかにして脱することができるのか。

 3人の振る舞いについ笑ってしまうのだけれど、その笑いは、多かれ少なかれ自意識に縛られている私たちにそのまま返ってくるものでもあり、心の深いところをチクリと刺しもするのである。

 <Profile>
藤津亮太
アニメ評論家。主な著書は『アニメ評論家宣言』(扶桑社)、『声優語』(一迅社)など。アニメなどのコラムを多数執筆。













































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