「終末ツーリング」さいとー栄先生1万字インタビュー!「アニメ 『終末ツーリング』ができるまで」

全国の漫画ファンの皆々さま、おはようございます。
カドコミュのTです。
誰だよ?っていう話だと思いますが、カドコミの連載作家さんや関係者もろもろとコミュニケーションをとって、できれば読者の皆様とその熱量を共有しながら、作品を盛り上げられれば…と、この取材型記事媒体「カドコミュ」を始めさせていただきます。
今回はその第一シリーズとして、今秋をきらめくアニメ絶賛放送中の作家さん方にインタビューアタックしたく、『終末ツーリング』のさいとー栄先生にお付き合いいただきました。
原作者でしか語れないアニメの見どころや、同作品がアニメ化に至るまでのストーリーを根掘り葉掘り聞かせていただいたので、是非最後までお付き合いください。
ちなみにまだ本作品を全く知らない方々に、「終末ツーリング」とは…

ツーリングの名所を走る1台のオフロードバイク。箱根で富士山を眺め、横浜ベイブリッジで釣りをして、有明の東京ビッグサイトへ向かう。
2人の少女がタンデムでバイク旅を楽しんでいるように見えるが周囲の景観はひどく荒れ果てていて――。
誰もいない終末世界を2人の少女がセローでトコトコ駆け回る異色のツーリングコミックがここに開幕!
世界が終わってもバイク旅は終わらない。
(カドコミより)

という、終末SFな世界を自由に走り続ける女子二人のツーリング物語です。
アニメでもその崩壊した日本随所の描写がリアルで美しく、自由に振る舞う主人公たちが楽しそう…ながら、彼女たちが訪ねる朽ち果てた場所場所に現代人としてどこかセンチメンタルにさせられたりするロードムービー的作品です。漫画もアニメも是非見てくださいね。
では、インタビュー始めさせていただきます!
■上手くなるためにひたすら描いたジャンプアシスタント時代
カドコミュT:さいとー先生、初めまして。今日は現在絶賛アニメ放送中の「終末ツーリング」についてお話をお聞きしていきたいのですが、まずはさいとー先生が「終末ツーリング」のアニメ化にたどり着くまでのキャリアについてお伺いしたく、漫画家を目指す前、幼少期からお聞きしていいですか?
さいとー先生:僕はもう物心ついた頃から絵を描くのがとにかく好きだったんですよ。模写したり色々していて、メカを描いたり、車描いたりって、ずっと描いてましたね。そんな中で、うちの実家は結構何でも許してくれる家庭だったので、漫画も普通に読めたし、アニメも見せてくれていたので、その再放送とかも、ムキになるくらい見てました。ちなみに、子供のころの趣味として釣りも大好きだったんですけど、これも「釣りキチ三平」の影響がかなり大きかったので、当時好きだったものは何もかも漫画やアニメがきっかけだったと思います。
カドコミュT:漫画三昧、アニメ三昧だったんですね。
さいとー先生:本当にがっつり漫画にハマり始めたのは、おそらく小学校ぐらいからでしょうか。当時、週刊少年ジャンプが盛り上がってましたし。駅に勤めていたウチの母親が持って帰ってきてくれていたんですよね。そのおかげで、中学生くらいから青年漫画誌も結構読んでました。
カドコミュT:ちなみに、コマを割って漫画を描いてみよう…を、初めてしたのはいつ頃だったんですか?
さいとー先生:それは僕は意外と遅くて…高校生の時でしたね。それまではイラストを描くだけだったんですけど、とある夏休みに、初めてなんかちょっと漫画描いてみようかな…って思ったんです。
カドコミュT:漫画家を目指そうとかではなく?
さいとー先生:いやいや、当時の僕には漫画家のなり方なんて分からなかったんですよ。むしろ、どちらかというと当時はアニメにもハマっていたので、まずはアニメーターになれないかな…みたいな気持ちもあって、体験授業みたいな感じで1回だけアニメーター学校みたいなところにも行ったんです。でも、その時にちょっとピンとこなかったんですよね。
カドコミュT:で、漫画を本気で描き始めたと。
さいとー先生:「漫画だったら自分ひとりでもできるかな」みたいな考えになって…多分初めて描いたやつだったか、2番目に書いたやつをジャンプの月例賞みたいなやつに出したんですよね。で、その時僕は高校3年で、まだ進路も就職先も決まってなかったので、原稿の裏に「僕みたいのでもアシスタントになれますか?」みたいな質問を書いたら、当時の編集さんから電話がかかってきて、「やる気があるなら紹介するよ」みたいなことを言ってもらったんです。これに「うわあ、びっくり」となって、右も左も分からなかったんですけど、いきなり「キャプテン翼」の高橋陽一先生の現場に連れて行かれたという……。
カドコミュT:それは…すごい話ですね。
さいとー先生:ええ、僕生まれて初めてのアシスタントは高橋先生なんです。でも、慣れない徹夜のせいか、すぐ十二指腸潰瘍になってしまって、本格的にアシスタントを始めたのはその後で、現場も他の先生に移ってしまいました。
カドコミュT:当時、そのジャンプ育ちの仲間の中にいて、苦労を分かち合ったり、刺激し合ったりしていたと思うんですけど、そのアシスタント時代の苦労とか聞いてもいいですか?
さいとー先生:やっぱりプロの原稿をいきなり手伝わされるんで、もう本当に僕の技量がついていかないんですよね。なので、うまくなるためにひたすら枚数とか描いたりとか。もしかすると今以上に一生懸命に描いていたんじゃないかと思います。あとは、当時のアシスタントって泊まり込みとかが普通だったので…そこは今の時代だと苦労話っぽく聞こえちゃうかもしれませんが、大変だったこともあるけど、むしろ楽しかった思い出の方が残ってますよ。本当に楽しかったし、アシスタント時代のエピソードは多分一晩話せますね。
カドコミュT:当時の歴代師匠以外に、それ以前の学生時代も含めて、影響を受けていた漫画ってありましたか?
さいとー先生:「AKIRA」ですね。もうすごい衝撃受けました。それまでの漫画とは全然違う、「凄いものを見てしまったな」という驚きな感じで、こんな漫画を描けるような人間になりたいなとかは全く思ってなかったんですけど…。僕が初めて投稿した原稿も、もちろんその時の画力なんて全然だったんですが、なんかいっぱいビルとか描き込むだけ描き込んでいて、その時の編集さんに「AKIRA好き?」って言われました(笑)
■ずっと言われていた「描きたいものは、売れてから描きなさい」
カドコミュT:「終末ツーリング」は先生の好きなもの全部載せみたいな作品という印象がありますが、当時からこんな作品を作りたいと構想はしていたんですか?
さいとー先生:いやいや、当時編集やまわりに言われていたのは「描きたい作品は漫画家として売れてから描きなさい」だったんですよ。これは今と逆かもしれませんね。今は「とにかく好きなもの描きなさい」ですし、当時だってもちろん自分が全然好きじゃないものなんて描けないし、一応描いてみたこともあったんですが…「まず漫画家として『商品になるもの』を作る。そのために好きなもの、描きたいものは一旦置いときなさい」みたいに言われてたんです。
カドコミュT:今が変わり過ぎた感もありますが…真逆ですね…。
さいとー先生:僕の友達で「ロボットものが描きたい!」って言った奴がいたんですが「エヴァンゲリオンを超えられるんだったら描いてもいいよ」って編集さんに言われてて「それは無理…」って諦めてましたね。もし、育った現場が違えば、僕ももうちょっと早く「終末ツーリング」みたいな作品にチャレンジしてたかもしれないですね。
■コミカライズは、好きでやっていた
カドコミュT:そんな時代からもろもろを経て、さいとー先生は「終末ツーリング」に至る前に、「ヘヴィーオブジェクトS」「ヘヴィーオブジェクトA」「刀使ノ巫女」「艦隊これくしょん -艦これ- いつか静かな海で」などのさまざまなコミカライズやアニメ化作品のスピンオフを描いてらっしゃいます。原作付き作品を作画していた当時の心境や、そこで得られたことなどを聞いてもいいでしょうか?
さいとー先生:えっとですね、僕は結構コミカライズを好きでやらせてもらっていたんですよ。その理由の一つとしては、コミカライズって自分の中にない発想のものを描けるんですよね。発想だけあって、まだ絵になってなかったりするものを「自分ならこう描くな、こう描けるな」っていうのが楽しかったですし、自分の引き出しも増えた感じがします。例えば「刀使ノ巫女」だと、自分は日本刀とかの知識が全然なかったので結構勉強したりして、「こう描くとかっこいいな、アクションはこうしよう」とか、勉強になりましたね。また、担当編集Aさんに最初に声かけられた「ヘヴィーオブジェクトS」とかだと、こちらはコンビものだったんですが「あ、結構コンビものって面白いじゃん」と思うきっかけになりましたし、今の「終末ツーリング」の要素も、いくつかそれらのコミカライズ作品からもらってるかもしれません。
カドコミュT:「刀使ノ巫女」では、アニメのアフレコ現場をコミックの巻末でリポートしたりしていましたが、コミカライズ当時「アニメ」「アニメ化」に対して意識が高まったりしましたか?
さいとー先生:いやいやいや、当時のそれは全く自分とはシンクロしてなかったですね。でも、やっぱりプロの声優さんの仕事を直接聞けたっていうのは、感動しましたね。ただ、ファンとして「凄いな」みたいな感じでした。アニメ「ヘビーオブジェクト」の時にも入らせてもらったんですが、その時は花江夏樹さんとか凄い人たちだったんですけど、5人か6人の現場で「わ、すごいな、すごいな。え、同じ人たちがガヤとかもやってんだ、主演の方も⁉」みたいな。
カドコミュT:「刀使ノ巫女」も?
さいとー先生:アニメ「刀使ノ巫女」に行った時は、さらにもう女性の声優さんが20人くらいいらっしゃって、ただただ「女子校ってこんな感じなのかな…」みたいな。それも自分事としては見てはいなかったです。
カドコミュT:見学して終わり、みたいな感じだったんですか?
さいとー先生:いや、そんなことも無いですが(笑)。例えば、アニメ「刀使ノ巫女」のチームとかですと、ただのコミカライズ担当だった自分に本当に良くしていただきました。監督や脚本家さんがいる場に交ぜてもらったりして、よく話をしていただいて。アニメ制作現場の話もかいつまんで聞かせていただいたり、知らなかった世界に横の繋がりができたというか、とても良いご縁をいただいたと思います。
■「SFはウケないんだよ」と言われ続けた「終末ツーリング」
カドコミュT:ここから「終末ツーリング」誕生へと話を進ませていただければと思うのですが、単行本7巻のあとがきに当初、同作は「異世界系のバウンティハンターコンビもの」で考えていた、みたいな記述がありました。その変遷についてもう少し詳しく聞かせていただけますか?
さいとー先生:本当は…元は「終末はツーリングに行こう!」ってタイトルで、当時付き合いがあった編集者さんたちに持っていってた企画なんですよね。で、その頃どこ行っても「今の時代、SFウケないんだよね」って必ず言われてました。で、まずハンター設定が消えて、もうひとエキス欲しいなって…実際にある土地とか絡めたら面白いんじゃないかな、みたいなところにたどり着くんですが…それはいろいろな所を回っているうちに、時々のいろんな編集さんと話しながら、その中で変わっていったという。ただ「この二人を主人公としたバイク旅のSFロードムービーで行こう!」だけは決まっていて、その舞台の世界観を足したり引いたりした感じですね。
カドコミュT:「今の時代、ウケないんだよね」と言われていたSF要素を乗っけた上に、ツーリング、アウトドアと、恐らくは、さいとー先生が好きなものをガチガチに詰め込んだであろう現在の「終末ツーリング」には、どんないきさつでたどり着いたんでしょう?
さいとー先生:それまでコミカライズの仕事をやってきた中で、そろそろ自分の好きなものをやってみようかなみたいな気落ちもあったタイミングだったんですけど、そんな中で、とある出版社に「何でもいい(から描いてくれませんか)」って言われたんですよ。それで持って行ったのが「終末ツーリング」だったんですよね。結局そこも「SFはウケない」になって、結果的には電撃マオウさんの担当A氏にたどり着くんですが…。
カドコミュT:「終末ツーリング」の初期テーマって何だったのか、お伺いしてもいいですか?
さいとー先生:多分、単行本1巻のあとがきに書いたのが大体そのままなんですけど。まぁ…1990年代って、ノストラダムスの予言じゃないですけど、そういう終末論が流行ったじゃないですか。ターミネーターにしろ、北斗の拳にしろ、マッドマックスにしろ。ああいうのが僕は結構好きなんです。ただ「まぁ、見てる分には楽しいけど、あの主人公たちは大変そうだな」って感じだったんですよね。でも、舞台になっている世界はすごく魅力的で、この世界に行って(大変そうな主人公とは別に)ゆっくり味わえたら楽しそうだな…と思ってました。
カドコミュT:窮屈な令和を生きる我々から見ると、二人の旅は眩しいくらい自由ですからね。
さいとー先生:そうかもしれませんね(笑)、終末世界のシビアさは変わらないけど、でも、そこを旅するヨーコとアイリを見て、その世界を「楽しそう、面白そう」と思ってもらえたら…という。文明が滅んじゃって、不便でも、大変でも、そこを楽しそうに生きているっていう二人の姿を描いていきたいなというのがコンセプトですね。
カドコミュT:見ている我々は妙にセンチメンタルになったりしますけど…二人は基本楽しそうですからね。
■読者の好評を感じた「モビリティリゾートもてぎ編」
カドコミュT:連載開始以降からアニメ化決定までに、「この作品行けるぞ!」とご自身で手応えを感じたエピソードがあれば是非聞かせていただけますか。
さいとー先生:僕自身は「行けるぞ!」なんて思ったことはないんですよ。でも、「モビリティリゾートもてぎ編」(第15話~第18話)とかは、わりかし普段僕のことを褒めない知人とかも「今回良かった」と言ってくれたり、SNSとかでも読者の方に「あの回好きです」みたいな反響をいただいたりしたので、嬉しかったですね。
カドコミュT:そのエピソード良いですよね。何かを作ってたり、何らかの仕事をしてる全ての大人の心に染みるクライマックスでした…。
さいとー先生:嬉しいですね(笑)。あとは、2024年フランスで開催された「JAPAN EXPO」の「DARUMA賞」という漫画アワードの日常コミック部門で「終末ツーリング」をノミネートいただきまして、それも嬉しかったですね。日本だけじゃなくて、海外の人にも読んでもらえてるんだって。その後フランス語とか…スペイン語も結構多かったですけど、海外の方々から応援メッセージをいただいたりして、ワールドワイドな展開に凄いな…と思いました。
カドコミュT:ちなみに国内のSNSなどで届いた読者の方からのメッセージなどで嬉しかったことなどはありましたか?
さいとー先生:Xとかで読者の方がイラストを描いて、投稿してくれると「うちのキャラクター描いてくれてる!」って思うし、いつも嬉しいですよ。あとはこの時代に、わざわざ手描きでファンレターをもらえたのは、純粋にありがたかったですね。内容うんぬんじゃなくて、手描きって結構大変じゃないですか。しかも、わざわざポストに投函してくれたんだ…って思うと、本当に励みになります。
■アニメ化決定は「ただただ実感が無かった」
カドコミュT:そんな中である日突然、担当編集A氏から「『終末ツーリング』アニメ化決定!」の連絡を受けることになると思うんですが、その日のことをできるだけ詳しく思い出してもらっていいですか?
さいとー先生:はい。あの連絡をもらったのは、とある年の多分年末だったと思うんですけど…電話をもらって、正直本当にそんな話は全く予期してなかったんですよ。なので、あの………普通にびっくりしました。本当もうそれ以外の言葉が無くて。「ああ、そうなんだ」「すごーい」「うちの作品がアニメになるの………?」って他人事みたいな感じですかね 。
カドコミュT:全く想定してないアニメ化決定報告だったんですか?
さいとー先生:そうですね、そんなことは本当に全く考えて無かったので、実感がないというか。アニメ化を目指していたとかも特になかったので。ただその後日、だいぶ経ってから、アニメになるなら「もっとキャラクターいっぱい出しとけば良かった…」「もっと自分の趣味っぽい(洋画的な)渋いおじさん声優さんにやってもらえるようなキャラを入れときゃ良かった…」とか、いろいろ思ったりしましたけど(笑)。
カドコミュT:ほかに思ったことは無いですか?身内が喜びそう…とか。
さいとー先生:僕の友人で「ざつ旅」っていう作品を書いてる石坂ケンタ先生っていう、仲良くしている人がいるんですけど、彼の作品がアニメになりそうだ(2025年春クール放送)っていうのは先に聞いていたので、まさか同じ年に放送されることになるなんて…って、それもちょっとびっくりしてましたね。
カドコミュT:それはめでたいですね。
さいとー先生:僕が「電撃マオウ」でやってる中だと、だいぶ初期から「この美術部には問題がある!」のいむぎむる先生と石坂先生と3人で結構仲良くさせてもらっていて、今回アニメ化の話をいただいて、それがオープンにできた時に、二人にとても喜んでもらえたし、アニメ化のちょっとした相談にのってもらえて、やっぱりこれはこれで良かったのかなと思いました。
カドコミュT:もうちょっと担当編集A氏から「アニメ化決定」の連絡を受けた日のディティールをお伺いしたいのですが、例えば電話でのA氏のテンションってどんな感じでしたか?
さいとー先生:これは………A氏、どうでしたっけ?
担当編集A氏:あの…これは私だけの感覚かもしれないんですが、アニメ化の話って「ここまで話が進んだから確実にアニメになる!」みたいな瞬間がなかなか無くて、ずっと「●●を確認中」とか「●●と調整中」とか、何か未確定な感じを持ったまま話が進んでいくんですね。で、常にぬか喜びさせてはマズいと思っていたので…僕がさいとー先生にお祭り騒ぎ的な連絡をしたタイミングは結局1回も無いと思います。
さいとー先生:確かに!それはずっとおっしゃってましたね。
カドコミュT:A氏はクールですね。
担当編集A氏:いやいや…もう確定です!っていうタイミングは、自分もアニメ側スタッフとの顔合わせの時でようやく「どうやらこれは無くならなそうだな」って…思ったぐらいな感じだったので…。
さいとー先生:確かに、かなり話が進んだ状態で連絡をもらったような気がしますよね。
担当編集A氏:正直、アニメ化の問い合わせの一番最初は1巻が出たぐらいの時に来てたんです。「どこか(他社で)でアニメ化が決まってますか ?」 みたいな。 で、そのタイミングで一度さいとー先生には「アニメの話が来たら、動かしていいですか?」っていう確認だけはしてるんですよ。そこから、問い合わせは続けて来てるなっていう状況はあったんですけど、本格的に動き出したのは4巻、5巻が出たあたりだったと思いますね…。
カドコミュT:そんな中でのアニメ化決定後も、しばらくその事実については周囲に話せなかったと思うのですが、オープンになった時に親族友達などから嬉しいメッセージとかなかったんですか?
さいとー先生:それがですね…ウチの親族は、漫画・アニメを追ってない人がほとんどで「アニメ化」とかあんまりピンと来てませんでした。
カドコミュT:そんなことあります!?地元でお祭り開かれるくらいじゃないんですか?
さいとー先生:友達は「おおー、ついにか」みたいなこと言ってたけど、なんかあんまりピンと来ていない感じぐらいでしたね。で、オタクな友達には「最初から狙ってたんでしょ」とかって言われたけど、それはそれで「そんな訳ないだろ」という…。
■アニメ化が決まって一番辛いのは「ただそれを黙っていること」
カドコミュT:何か…色々ムズいんですね…。そんなアニメ化決定後で一番大変だったことって何ですか?
さいとー先生:アニメ化って、その話が来るのが、情報解禁の何年か前になるじゃないですか。だいたい1、2年前になるんですよね。で、そこには守秘義務があるんです。なのでもう、これを黙ってるのが結構大変なんですよ。その間にちょいちょい「アニメになるの?」とかって聞かれたりするんですけど、嘘を言うのも嫌だし「そんな話来たらいいね…」とか言ってゴマかしてるのが辛かった。結構仲良い友達にも言えなかったし、その状況が一番大変だったかもしれません。
カドコミュT:実務的には、大変なことは無かったですか?
さいとー先生:うーーん…、知らない言葉ばかりが飛び交う世界だったので、アニメ関係者さんたちの中に僕がポンって入ってく感じで正直右も左も分からなかったんですよ。その業界の常識も分からないし、何をやって、何をどう言っていいかも分からない。緊張してるし「別分野から来ました!僕は今、どういう風に関わっていいでしょうか?」って…結構手探りでやっていくという。それも大変でしたね。でも、だからこそ成長させてもらった気がします。
カドコミュT:苦労した話ばかり聞きたがっちゃいましたが、楽しかった思い出はありますか?
さいとー先生:もちろん。設定資料とか設定画とか、果ては映像とかを誰よりも早く見せて貰える。お仕事でありながら、そういうのを見せてもらうのは、やっぱり嬉しかったですね。キャラクターのデザインも明珍宇作さんってすごく上手い方にやってもらって、その資料を見せてもらえるし、背景とかも「うわぁ!こんな感じで描いてくれるのか、凄いなぁ」って…これは多分、仕事で…じゃなくて完全にファン心理なんでしょうね。映像を見させてもらって「上手いなぁ…」「コレはすげえなぁ」とか「あ、ココにこんな音楽がつくんだ…」みたいな、色々なプロフェッショナルの仕事を、裏方で最初に見せてもらえるのは、最高に楽しかったですね。
カドコミュT:アニメ「終末ツ-リング」の背景って、本当に綺麗ですよね。
さいとー先生:そうそうそう。何回も何回もロケで現地に行ったって聞きました。
■アニメも漫画も「ヨーコとアイリと一緒にツーリングをしている気分で楽しく見てもらえたら」
カドコミュT:では、ここで原作者としてご自身はアニメ「終末ツーリング」をどう見たいか、また、視聴者にどう見て欲しいかなど、ポイントなどを聞かせてください。
さいとー先生:とりあえず、アニメ「終末ツーリング」で見て欲しい所は「アニメスタッフ陣のプロの技」ですかね。監督の徳本善信さんや脚本の筆安一幸さんには、全面的に漫画準拠で作っていただきながら、それでもちょっとずつ足りない部分や、映像化を考えた部分を足してもらったりしてるんですが、そういうちょっとしたアニメオリジナル部分が凄い面白いんですよ。明珍宇作さん(キャラクターデザイン・総作画監督)のイラストも素晴らしいし、あとは、さっき話題に挙がった背景!背景はもう凄すぎです。美しいし、実在の風景をいちいち美しく壊す…というか、崩壊した日本の背景を担当してる方々の、作業じゃなく「自分のクリエイティブで描き込んでる」みたいな所を感じさせてもらってます。「本人たちも好きで描いてる。きれいなだけじゃなくて、どうやって壊そうかなっていつも考えてる」って聞かせていただきましたけど、そういった仕事から、アニメ版の舞台の終末感というものがより表現されてくるのが、凄い面白いなと思います。「漫画のここがどうなった」とかよりも、そういったアニメスタッフさんたちの作り上げたオリジナルな仕事が凄く面白いので、そこを見て欲しいです。
カドコミュT:アニメスタッフの技に惚れこんでいることはよく分かりましたが、原作者としての根源的なこう見てくれたら嬉しいな…みたいな所はありますか?
さいとー先生:「アニメは楽しく見ていただけるであろう」という上で、僕は読者さんの好きなように見て欲しいと思う方なんですが、あえて言うなら視聴者の方にはヨーコとアイリと一緒にツーリングをしている気分で楽しく見てもらえたらいいな…と思っています。これは漫画でもそうなんですけど、これからもまだまだ楽しい所に行ったり、いろんなことをしながら、旅は続いていくので、読む、見るとかよりも、二人と一緒に旅を楽しんでいただきたいです。
カドコミュT:では、一旦アニメを置いておいて、現在連載進行中の漫画本編に関しても「ここを楽しんで欲しい」みたいな部分をお聞かせ願えますでしょうか?三沢基地編が完結して、二人はまた先に進んでいますが…。
さいとー先生:そうですね、見てくれている方はご存じかと思いますが「終末ツーリング」では、訪ねた場所ごとに一つの物語が完結する、ある種読み切りっぽいスタイルで積み上げていく形なので、その一つ一つを楽しんでいただければ幸いです。二人がこんなところに行って、そこが廃墟になっていたりして、でも、そんなところでこんな事したら楽しいよね、わくわくするよね… っていう所が「終末ツーリング」だったりするので、その場所ごと、そのエピソードごとの物語を単純に楽しんで欲しいです。
カドコミュT:ありがとうございます!…と、きれいにまとめていただきましたが、実はヨーコとアイリの乗るセローへの愛や、実際ご自身が好きな作中のツーリングスポットなど、まだまだ付き合っていただきたい話題がありまして…もうちょっとだけそこら辺のトークにお付き合いいただけますか?
さいとー先生:いいですよー(笑)
※次回インタビューB版(10/30更新予定)に続く!

著者:さいとー栄
あらすじ
ツーリングの名所を走る1台のオフロードバイク。箱根で富士山を眺め、横浜ベイブリッジで釣りをして、有明の東京ビッグサイトへ向かう。
2人の少女がタンデムでバイク旅を楽しんでいるように見えるが周囲の景観はひどく荒れ果てていて――。
誰もいない終末世界を2人の少女がセローでトコトコ駆け回る異色のツーリングコミックがここに開幕!
世界が終わってもバイク旅は終わらない。




