「うちの子、もしかして……」そんな小さな不安を抱えながら、どこに相談すればいいか分からずにいる保護者は多い。『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援 ももの木スクール~』原作者であり、実際に児童発達支援の現場で管理責任者を務めた経験を持つほっかむりゆり子さんと、新生児科医・小児科専門医として多くの子どもたちの発達と向き合ってきた今西洋介先生(ふらいと先生)に、現場のリアルを語り合ってもらった。
診断名よりも大切なこと、子どもの「心の貯金」を守るために、今できることとは。
■『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援 ももの木スクール~』とは…
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児童発達支援――。
それは発達障害などを持つ未就学児の子どもを対象に、個々の特性に沿って発達を促し、自立の基礎を育む機関。
2012年の制度開始以来、その事業所の数は急増し続けている。ADHD、自閉スペクトラム症、遺伝子疾患による発達の遅れ――。様々な障害を抱える子供たちの問題は、時にその家庭から支援を必要とする。
kindleインディーズマンガで300万DLを記録中の超高評価マンガを『ニーチェ先生』のハシモトがコミカライズ!
(カドコミより)
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という、療養保育士の現場を描いた作品。「ニーチェ先生~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~ 」の最終巻を今年刊行したハシモト先生が漫画を担当&「ふらいと先生」としても親しまれる新生児科医・小児科専門医の今西洋介先生(医療ドラマ「コウノドリ」にて取材協力・医療監修)が監修としてチームに加わり、商業版として再発進させた。

◆漫画が照らす、日の当たらない場所◆
ゆり子先生: お会いできまして光栄です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
今西先生: こちらこそ、よろしくお願いします。原作のほうの『エスプレッソ・コーラ』も少し読みました。全部ではないんですが、量がなかなか大変で……(笑)。元々この作品自体を知っていたわけではないのですが、改めて商業版の漫画にリニューアルされると聞いて、どんな作品かと思って読んでみたら、すごく面白くて。着目した点がすごいというか。時代に合っているというか。私も新生児科で発達を診ていますが、合併症や基礎疾患のある子の療育というのは、なかなか日の当たらない部分になっていて、それが漫画化されたというのはすごくいいことだと思いました。
カドコミスタッフK(以下K): 『エスプレッソ・コーラ』は生まれつきの疾患から発達課題まで、幅広く扱っているところが医療マンガ的な厚みになっていますよね。今西先生が配信されているニュースレターでも発達課題や発達障害についてはたびたびテーマになっているかと思うんですが、本当に今これだけ日々話題にあがる「発達障害」は、実際に増えているのでしょうか?
今西先生: 私の外来は少し特殊で、超早産児(27週未満、8ヶ月未満で生まれた赤ちゃん)もいる外来です。そういった赤ちゃんは約2〜3割に何らかの障害があると言われていて、私の外来でも、ずっと目線が合わない子や走り回っている子は多いです。
発達障害が増えているかというと、診断される数は確かに増えています。私は今18年目なんですが、18年前と比べると、昔は診断に至らなかった子どもたちが早期発見で見つかるシステムが出来上がってきた、ということだと思います。早いと1歳くらいでスクリーニングにかかってきますね。後期健診(10ヶ月健診)で、お母さんが不安だとか、育てにくさへの違和感があって紹介されてくる方も増えています。18年前は3歳受診で発達をチェックするという流れでしたが、今は1歳半健診で気になる点があればすぐに専門機関で心理検査をというマインドが小児科全体でも高まってきています。診断が非常に早くなった。だから「増えた」という感覚はそういうことだと思います。早期発見のマインドが高くなっている。
K: やはり早期発見のメリットは大きいのでしょうか。
今西先生: そうですね。見つかる仕組みが整ったことで早く療育につながれる。早く療育につながればそれだけ訓練の時間が増えるので、社会に出る時に適応しやすくなると言われています。
K: ゆり子さんの方は、現場の感覚としてはいかがですか?
ゆり子先生: そこは実は結構個人差がある印象です。たしかに「早く療育に繋がったほうがよかっただろう」というケースもあるんですが、児童発達支援では年長さん(5〜6歳)が一番遅い入所ラインになるんですけど、年長から療育に来てもスクスク伸びていく子も結構いるんですよ。ただ、特に軽度の発達障害や知的障害がないタイプのお子さんだと、療育につながるまでに心が折れてしまっていることがあって。いざ療育しようとなっても、怖くて活動できないとか、失敗するのが嫌でできないというところからスタートしなければならない。
自信のなさや「自分はダメだ」という気持ちが年長の時点までで育ってしまっている場合、まず活動に参加できるマインドを作ることに時間がかかってしまって、本題の活動がなかなかできないまま卒業になってしまうこともありますね。
ただ、その気持ちの作り方も個性というか個人差があるので、卒業まですごく活動を拒否していたから、つまらなかったのかと思ったら実はすごく楽しみにしてくれていた……みたいなこともあったりで、いろいろです。
K: 今西先生は今アメリカ在住でいらっしゃいますが、アメリカの療育システムも日本に近い形なのでしょうか?
今西先生: アメリカでは、診断の地域差がすごいということが言われています。CDC(米国疾病予防管理センター)の報告でも出ていて、都市部ではかなり診断が早いんですが、地方の人口が少ないところではスクリーニングが遅れてしまうと言われています。ただ、私が住むロサンゼルスでは、幼稚園ごとに「チャイルド デベロップメンタルセンター」というものがあって、保育が始まる前の30分間、発達が少し遅れ気味な子を早くケアして療育をしたり、保育が終わった後も無償(一部有料)で療育を受けられたりします。
アメリカの保育の良い面は、担当の先生が変わらないということです。担任の先生はそのままで、上がれるような形になっている。先生が変わらないというのはすごく大きくて、安心感があります。しかもそれが無償で受けられる。日本との差をものすごく感じますね。
もう一つ大きいのは、アメリカは診断がなくても発達支援のサービスを受けられるということです。日本は診断にこだわりがちですが、アメリカは「ちょっと発達が気になっている」というだけで療育に入れる。フレキシビリティがあるんです。それがすごいなと衝撃でした。
あと保育士さんが療育をメインで行うわけではないんですが、基礎の部分は学ばれていて、専門家を補助する形で関わっています。免許はいらない。クラスにそういう先生がいるというのは、子どもたちにとって支えになるシステムだと思いますね。
ゆり子先生: 実は日本にも似たような形を試みている事業所はあることにはあるんです。同じ法人に保育園と児童発達支援事業所があって、療育の時間になったら保育園に迎えに行って、都合が合えば保育園の先生も一緒に来てもらって一緒に活動する――ということをやっていたり。ただ、そういうところがあっても、まだ非常に数が少ないのが現状ですね。
今西先生: 療育に繋がるにしても、やっぱり親の「育てにくさ」という感覚は一つのサインになるかなと思っています。それなのに日本では診断がないとなかなか療育につなげられないし、福祉サービスも受けられない。アメリカは「現に困り事が起きている状況」がすごく重視されていて、育てにくかったらもう療育で、という形になっている。
子育てに対する科学的アプローチ、共同調整(co-regulation)というものが「療育」だと思うんですが、定型発達だろうと特性があろうと全然関係なく、すべての子に有用な方法だと思っています。でも日本では子育てについて全く学ばないまま、なんとなく親になって、みんな手探り状態でやっている。だから、子どもに育ちにくさがあると本当に保護者の方たちが追い詰められてしまう。たとえばですが、お子さんが工事車両のクレーンを上げる動画を1日100〜200回見るということで不安を持ったお母さんが「これは普通のことでしょうか?」と医師に相談して、その場で療育に繋がったというケースも聞きました。どこがスタンダードか分からない。なので違和感を少しでも感じたら小児科を受診してほしいですし、健診で伝えてほしいです。
K: 保護者の方も初めてのお子さんだったりするととくに「普通」がわからなくて伝えられないということもありますよね。『エスプレッソ・コーラ』の作中でも保育士さんなどが気が付いていても保育士の立場からは保護者に伝えにくいというケースが描かれていましたが……。

※療育側・保護者側だけではなく、保育士の目線・苦労も交えて多角的に描かれる「エスプレッソ・コーラ~児童発達支援 ももの木スクール~」(第4話-①より)
ゆり子先生: 検診や保育士との面談で何も言われないから大丈夫、と思っている方は多いかと思います。先生も言わない。じゃあうちの子は問題ないという解釈になりがちで。実は保育者側からは違和感に気が付いていても言い出しにくくて言えていないだけだったり、遠回しに言われていることが実はるんですが、そのことを漫画で出したら衝撃を受けたお母さんが「うちもしかして保育園でそう思われているんじゃないか」と心配になって聞いてきてくれた、ということもありましたね。
今西先生: 難しいですよね。多くの子どもに接していない人にとっては「子どもってこんなものかな」、と思ってしまったりする。多動傾向や自閉傾向があったとしても、どこを基準にするかは分かりにくいところでしょうから。
K: 保育士さんや幼稚園の先生方からは保護者さんに伝えにくいというのは心情的に理解できます。揉めることもあるでしょうし……。でもだからこそ漫画などの第三者の物語としていくつかのケースを知ることができると受け入れやすいのかもしれませんね。
今西先生: ちなみに『エスプレッソ・コーラ』は今のところ何人くらい登場人物がいるんですか?
ゆり子先生: セカンドシーズンまで行くと150冊くらい出ているのですが、数冊使って1ケースということも多いので……。1家族がだいたい2〜4人程度として全部で70〜90人くらいかなと。

※現在、原作版ではセカンドシーズンの61巻まで進行中。ちなみに主人公の山原は現在児童発達支援4年目となっている
今西先生: すごいですね。KADOKAWA版でもすべて刊行するんですか?
ゆり子先生: そうできたらいいですね。そうなれるよう頑張りたいです。
◆その子の世界に、どう入るか◆
K: ちなみに、いわゆる発達障害がある方に起こる感覚過敏や強い不安というのは、どういう作用で起こってしまうものなんでしょうか?
今西先生: よくある誤解なんですが、MRIなど画像検査で発達障害を診断できると思っている方も結構いらっしゃいます。でも脳の微細な構造の変化は画像検査では映らない。なので画像検査などでは診断はできない、というのがまず一つの誤解ですね。
発達障害には微細な脳の構造がいわゆる感覚の問題に関係していて、光や音でパニックになったり、切り替えができなかったり、人込みが苦手だったりする。こういう特性があるということを、J1サッカークラブの川崎フロンターレのクラブチームが公式YouTubeで『発達特性のある子供は世界がこう見えている』というVR体験動画を上げて、すごく反響があったことがありました。音がすごくガーンとなっていたり、街中の信号がピカピカしていたりして、「本人たちはこんな世界で生きているんだ」というのを体験できる動画です。発達特性を持つ子どもたちがそういう世界で生きているということを全然知らない方も多いので、漫画を通じてリアルな気持ちを知っていただけたらいいなと思います。
ゆり子先生: 聴こえている音の判別ができないとか、見通しがつかないことへの不安も結構大きいですよね。見通しがつかないからこそ、それに対する不安が強い。なので見通しをあらかじめつける練習をしていけば不安が少し良くなるので……。
今西先生: プロフィールの凸凹を少しなだらかにしていくということですよね。
K: ゆり子さんは、切り替えができなかったり活動に入れなかったりする子を実際の療育の場ではどう調整されていたんですか?
ゆり子先生: 真正面から誘うとやはりダメなことが多いですね。「鬼ごっこしよう、ほら楽しいよ」とか「負けても気にしないよ」みたいなテンプレートの言葉は、保育園でも家庭でも子どもたちは100回以上言われているので受け付けてくれないんです。
だから、全然違う視点から、どうでもいい話から始めたりしていました。「今日、何してきたの?」みたいな軽い雑談から始めて、徐々にこちらのペースに引き込んで、「先生ちょっと行くところあるんだけど手伝ってくれない?」みたいな感じで、子どもたちがやらされている感を持たないようにさりげなく入れる。
やっているうちに楽しくなったらそれでいいですし、やっているうちにやっぱり嫌そうだったらまたやり方を考える。一回別のことをさせて気分を上げてから「最後だけちょっと活動に入りませんか」という感じで誘導したりとか。
真正面勝負はしないですね。「やりなさい」でピシッと動くタイプの指導スタイルもあるんですけど、私はそういう圧を出せないタイプなので、ちょろまかしながら、気づいたら子供が活動に入っているという形をとっていました。
今西先生: それでも、やらせることができれば結果は同じですもんね。
ゆり子先生: そう。そうなんです。実際にやって身に着けることがひとつでも増えればめっけものなので(笑)。
◆診断は「ゴール」ではなく「スタート」◆
K: 日本ではまだ発達特性を持つ子供への理解が薄いというか、療育を受けていると、「一般社会に出たらそんなに甘やかしてもらえないじゃないか」「普通の人としてやれることをやれるようになりなさい」みたいな意見がまだ多いように思います。学習障害に対しての合理的配慮などについても、テストの時間延長などはやりすぎだという主張がSNSに出ていたりもしていましたね。
実際に成長に伴い発達障害の特性が薄れるということはあるのでしょうか?
今西先生: 「薄れる」というより、特性は個性だと思っているんです。誰でも多少はある。障害というのは一つのラインで、特性が社会的に困るレベルかどうか、ということだと思います。訓練によって自閉の傾向が消えるということではなく、たとえば先行き不明なことが苦手という特性があるなら、人より先読みして予定を立てるという訓練をすることによって、社会でちゃんと機能できるようになる。
特性が消えるというよりも、特性の凸凹に自分を当てはめていく訓練をしていくというのが適切な表現かなと思います。
K: そう考えると、やはり本人が困る前に療育につながることは大切ですね。
今西先生: そう思います。言い方はあれですが、「こじれ切る前に」、初期段階で来てもらった方が本人も親御さんも楽かなというのはあります。だから、よく用いられる「様子見」という言葉は、あまり良くない使われ方をすることが多いですね。診断を先延ばしして療育導入も先延ばしにするという意味で使われることがある。そうではなく、やれることは支援を先に始めて、診断は並行して進める、という考え方が大事だと思います。
日本は本当に診断にこだわりすぎるところがあると思うんです。診断がないと療育を受けられない地域と診断なしでも受けられる地域の差も大きい。アメリカの場合は診断なしでも療育をスタートしていける。育てにくかったらもう療育でというフレキシビリティがある。そこが一番の違いかなと思います。
ダウン症についても最近の新生児科では、合併症がなければ発達が少し遅れる程度と捉えていて、特に診断をつけないことも多いんです。治療を受ける時に診断が必要になりますが、ダウン症でも最終的には普通に育っていきます。診断をつけない医療というのもこれからは一つ進んでいく必要があると思います。
K: 診断がレッテル張りになってしまうという問題もありますね。日本だと「発達障害」が悪口であるかのように間違った使われ方をしている状況があるかと思います。
今西先生: そうですね。「あの人発達障害っぽい」みたいな使われ方をしている。だからこそ、診断よりも「何ができるか」という視点の方が大事というメッセージを送り続けないといけないと思います。
「障害」という言葉自体もハードルを上げますよね。私のいる小児科では「神経発達症」という言葉を使っています。英語だとdisorderで「不全」というニュアンスになるんですが、日本語の「障害」は「劣っている」という見方をされがちで、ちょっとニュアンスが違います。
私が新生児科でよく聞く言葉は「障害ってほんとはないんだ、社会が決めているレッテルなんだ」というものです。日本にもダウン症の俳優さんがいらっしゃいますよね。彼ら自身は自分のことを障害だと思っていないんですよ。障害と思っているのは周りの大人で。障害という言葉を少しずつ社会から消していかないといけない。
K: それはちょうど二次障害の話につながりますね。本来、社会がそうなっていれば二次障害は起こらない話なのだと思うのですが。

※「二次障害編」は原作のセカンドシーズン第34巻から第39巻で描かれたエピソード
今西先生: こちらの方が問題ですよね。発達障害によっていじめられたり、学校の先生から出席停止にされたり、そういった精神的ダメージが大きい。ASD(自閉スペクトラム症)にうつ症状が合併するというのは学術的にも言われていますし、自殺リスクも定型発達と比べるとかなり高い。ASDのある方の4人に1人は死にたいという気持ちを持っていると言われています。感情表現が苦手だから表に出にくいけれど、心の中では死にたいと思っている方が多いことはちゃんと頭に入れておかないといけないと思います。
これはASDだから起きるわけではなくて、ASDによって二次障害が起きているということです。たとえばASDの子でもお母さんがASDを認めたくなくて普通学級で頑張らせる、という場合に、かなりの確率で「死にたい」と言っているという事例があります。本人の特性に合った環境をちゃんと用意してあげることが大事です。
ゆり子先生: 実際、年長さんくらいになると子どもたちも自分と周囲との違和感に気づいていますね。言語化は得意じゃないので「僕は死にたい」とはっきりは言えないんですが、行動や情緒の波を見ていると普段大変なんだろうな、頑張って頑張って疲れてしまっているんだろうなということが伺えます。思春期くらいになると明確に「死んでやる」と言ったり、手首を切ってきたりするケースもありますね。特に女の子の方がそういったことが強かったかなという個人的な印象があります。
K: 『エスプレッソ・コーラ』の作品の中で「笑顔に混ざる療育はない」という言葉が何度か出てきますよね。それがまさにその二次障害的な部分への効き目というか、響くポイントになるのかなと。
ゆり子先生: 心から楽しくて笑える環境というのが少ないんですよね。集団生活だと怒られるし、現場の先生も一生懸命なんですけど、どうしても大勢を見る中で、発達特性を持つ子供への共感度が低くなってしまう。特性は分かっていても甘えているんじゃないかという解釈をされてしまうことも数年前は多かったかなと思います。
今西先生: だからこそ、心の貯金を作る場としても療育の場が機能しているといいですよね。
K: その心の貯金、というようなことは家庭でもできることがあるでしょうか?
ゆり子先生: できるだけ怒らないとか、何かミスした時にそこを責めるのではなく、「物を壊したら自分で後始末をしたり、直してね」とか「失敗したけどどうにかなった」という体験をたくさん積ませることが家庭でもできればいいんだろうなと思います。ただ、実際子育てには感情が入ってしまうので、何千回とやられると保護者としても毎回怒らずにはできないというのもやっぱりあると思うので。そこは保護者へのサポートも必要なことだろうと思いますね。保護者自身も疲弊しているので。
◆医療と療育をつなぐ「伝言ゲーム」の壁◆
K: 保護者の方が子供の発達に違和感を覚えたとしても、なかなか医療機関に繋がるまでは至らないということは多いと思うのですが、保護者としてはどう医師の方に伝えていくのが良いのでしょうか?
今西先生: 今一番多い相談は「うちの子はASDですか」「ADHDですか」と診断名から入る方が多いんですね。でもそういう情報よりも、どういった症状があって、どういうことがあって、どんな頻度で起きているか、それによって生活が止まるかどうか、あるいは他の子を傷つける行為をするかどうか、自分を傷つけるか、再現性があるかなど——そういったことを詳しく教えていただけると助かります。
私の場合ですと、1人30〜60分かけて生活のことを詳しく聞きます。朝何時に起きて何をしているか、そういう生活の中から、「実はこういうことに困っています」とお母さんの方から話してきてくれることも多い。困ったことももちろんですが、「なんかちょっと良くなった気がします」という変化もすごくヒントになります。
診断名を聞かれるよりも、そういった日々の中の細かいことを伝えていただく方がありがたいかなというのが正直なところです。ただ、診断にこだわっている先生もまだいる。3歳健診で「様子見」と言って診断も療育も先延ばしにする先生もいる。そういった時はためらわずにセカンドオピニオンをとってほしいですね。
実は、アメリカは医者個人にID(NPI:National Provider Identifier)が紐付けられていて、怪しい診療をしている医者は国が把握できる仕組みになっています。日本にはそれがないので、おかしな診療をしている医者を把握できない。だから日本ではママ友の口コミが一番の情報源になるんですが、そこに繋がれないお母さんは情報が入ってこないんですよね。
だからせっかく保護者の方が何かに気が付いていても、そこから先に進めないままになっていることはあるんじゃないかと。
ゆり子先生: 私がいた現場は福祉施設なので、すでに医療に繋がってきた方、もしくは繋がれた方としか会えない。それらを超えてきた方の最終段階なんです。現場をやめた今は主にサブスクで一般の方からの相談を受けていますが、私のところまでたどり着く時点で保護者さんはすでに情報にある程度アクセスできている方なんです。多分私にアクセスできない、漫画にもたどり着けない方がたくさんいるだろうなという感じはありますね。
今西先生: 私のニュースレターでも「医者にかかるほどじゃないけど気になる」という方からの相談やそういった内容についての反響は多くて、そういう需要はすごくあるなと思っています。
連携という話では、日本は医療と療育の連携がなかなか増えていかない。私がいた大阪の子ども病院では、週2回、保育士さんや地域の発達支援施設の方、児童精神科医、ケースワーカーなど多職種が集まってカンファレンスをしていました。お互いに顔が見える存在じゃないと、「あの子、うちで困っているんですよ」という情報が繋がらない。でもこれも、あの病院があの地域にあるからできているだけで、他の地域ではできていないと思います。
ゆり子先生: 他の疾患が無い自閉スペクトラム症やADHDだと我々療育保育士はお医者さんと話す機会が少なくて、あったとしてもお母さん経由で聞いた先生の所見しかない。伝言ゲーム状態になってしまいます。しかもお母さんの解釈が入っているのか、医師の方の原文のままなのかも分からないので……。
ちなみに医師の方から見て、療育現場はどう見えているんでしょうか?
今西先生: 実はNICU(新生児集中治療室)って集中治療で体力的にハードなんで、年を取ったら療育や発達支援のセンター長というキャリアチェンジをする医師が多いんです。私も療育センターで見学させてもらった時に、子どもたちがこういう活動をしているのを見て、本当に生活の訓練だなと実感しました。
連携については、やはり我々から見ても取れている実感は無くて、お母さんを通じた伝言ゲームになっています。年に1回でも、医療・療育・保育が集まる会議があれば顔が見えるようになるのに、というのはありますね。
だから医者がもっと地域に出たり、発信していけたらいいのにという思いはあります。ただ、日本の医療の構造として、1人に時間をかけると赤字になってしまう。日本はたくさん見れば見るほど儲かるシステムだから。例えば小児科なら午前と午後合わせて50人見ればペイできると言われていますが、発達外来で1人30〜60分かけると1日で50人は到底無理。だから儲からないので、やりたい先生が利益を度外視してやっているというのが実情です。これをなんとか変えないといけない。
政治的な話になりますが、「子育て・療育は家庭が基本」という考えが日本にはまだある。だから社会全体で子どもを見るという発想に転換していく必要があると思っています。
障害者手帳を持つお子さんのお母さんのメンタルヘルスがすごく悪いというデータも実際に出ていますし、自殺リスクも高い。お母さん方のSNSを見ていると「この子を殺して私も死ぬしかない」というようなことを本当に書いている方がいる。一方で子どもを置いていけないから自殺を踏みとどまっている、という方もいる。
ゆり子先生: そういったことは本当に日本全体の課題としてもっとオープンにしていくべきですよね。社会全体で障害のある方をケアしていくという流れになってほしい。保護者にかかる負担がこの国は多すぎる。今の状況を見ると、若い子が育児に乗り気になれないだろうなと思ってしまいますよね。少子化対策としてもこういう社会全体でケアしていくという流れになってほしいと思います。

※「エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~」第2話―②より
◆みんなが呼吸しやすい世界のために◆
今西先生: ゆり子さんがこの漫画を届けたいメッセージや、なぜ漫画を描くことになったか、改めて教えていただけますか?
ゆり子先生: 色々理由はあるんですが、10年くらい入所施設や児童発達支援をやってきて、全然世間に障害者支援の実態が広まっていないと感じていました。というか、いいところばかり出しがちだったんです。感動ドキュメンタリーみたいな、「努力・感動・愛」みたいなものしか出せないという風潮があったように思います。でも本当の問題――性的な問題や虐待、軽犯罪、万引きなど、問題のある側面もあるのになかったことにされてきた。
それを解決するには、福祉の界隈の中だけでもごもご言うよりは、世間に「今リアルはこうなっていますよ」と出してしまった方が日本全体の課題として認識されるんじゃないかと思ったんです。
現場のスタッフが「この支援はおかしいんじゃないか」と言っても、上の人間が「うちはこうだから」と伏せてしまえば、もう指導もされない。支援の現場ではそういうピラミッド的な力関係があることもあって。ならば私がそれも漫画にして全国に流して、決着をつけようじゃないか!なんて気持ちもありました。
今西先生: なぜ漫画を選ばれたんですか? 音声配信や動画配信もあるじゃないですか。
ゆり子先生: もともと漫画が好きだったんですよ(笑)。そんなに描いたことはなかったんですけど、「児童発達支援はまだ漫画になっていないな」と思ったということもあって、漫画かドラマになったら面白いよねと思ったんです。本当はドラマ化してほしかったんですが、いきなりドラマには誰もしてくれないから、「じゃあ原作は私が書こう」とインスタで描き始めて。描きながら「この問題はこれでいいの、こうじゃないの?」と日本中に問いかけてみようかなという感じですかね。
今西先生: 『コウノドリ』の時にも思いましたが、やはり漫画やドラマの啓発力はすごく大きい。医師が言っても届かないものが、漫画やドラマなどの作品では届くんです。『コウノドリ』が広まってから、実際に胎動がなくなったらすぐ受診するお母さんが増えたんですよ。
K: やはり物語として入ってくると身近なものとして感じやすくなってもらえますよね。
ゆり子先生: そうですよね。この漫画も生きにくさを抱える子どもたちやしんどさを抱える保護者の方に届いてくれれば、結果的にみんなが呼吸しやすい世界になるんじゃないかなと。
今西先生: 本当にそうなることを願っています。ドラマ化しましょう(笑)
ゆり子先生: そうしたいです! ありがとうございます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

◆「エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~」第1巻 7月8日発売決定!!

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