話題漫画の作者に話を聞く「カドコミュ」インタビュー。
今回は現在「宵を待つ月の物語」が連載中、さらに8月6日より新作「神子と夜叉嫁」の本連載が始まり、原作作品W連載となる顎木あくみ先生にお付き合いいただきました。
2019年のデビュー作「わたしの幸せな結婚」(明治大正風の帝都を舞台にした恋愛ファンタジー。当時画期的だった虐げられヒロイン×不愛想な超美形軍人の、誠実で真っすぐなラブが大人気に)が漫画化、アニメ化、実写化と幅広いメディアミックス展開をみせて以来、多くのファンに支持され続けている顎木あくみ先生。
前編では7月1日にコミックス第1巻が発売された「宵を待つ月の物語」の話を中心に、自身の考える「コミカライズ」の醍醐味や、魅力的な主人公男女の生み出し方、和風(少なくともアジア系)世界観に傾倒した理由、「ずっと書きたかった現代ファンタジー」とされる今作品の執筆に至った経緯や、その見どころ、今後の展開などを…根掘り葉掘り聞かせていただいたので、是非最後までお付き合いください。
ちなみに今作を全く知らない方々に…「宵を待つ月の物語」とは…


「わたしの幸せな結婚」著者・顎木あくみの話題作をコミカライズ!!
高校生の坂木夜花の住む町は、魔を退治する神祇官の一族である社城家が絶大な権力を持つ。両親を亡くし祖母と暮らす夜花は、祖母の指示で社城家で行われる宴会にかり出されたことをきっかけに、不思議な美しさの少年・千歳と出会って……!?
新たな力の目覚めと少年との邂逅、孤独な少女は怪異の世界へ――。
(カドコミより)

という…現代を舞台にしたファンタジー。
とあるきっかけで神様的な存在に遭遇し、人知れず「まれびと」という特別な存在になってしまった夜花。そんな彼女は異能力者たちが連なる地元の名家と関わりを持つことになり、同家の「落ちこぼれ」とされる少年・千歳と同居生活することなります。
でも、そこには…「実は新月の日にだけ大人の姿(上記サムネイルのイケメン参照)に変身する千歳の謎」「次期当主の序列を競う名家の異能者たち」「夜花と同時に『まれびと』となっていた同級生・晴と彼女に求婚する序列一位の美青年・瑞李との微妙な関係」など…まぁ他にもいっぱいありますが、いろいろとジャンルレスな問題が持ち込まれてくるわけです。
千歳との絆を深めていく夜花を見守りつつ…いろいろな面でも先が気になってしまう、「恋愛」「謎」「イケメン」「ファンタジー」「バトル」…いや、羅列しきれないくらいの〝エンタメ属性全詰め込みまくり〟な娯楽作品になっているので、是非読んでみてください。
では、インタビュー始めさせていただきます。
■漫画ではその時々の「相手に見せた表情」が見られる
カドコミュT:顎木先生、本日は宜しくお願いいたします。
顎木先生:宜しくお願いします。
カドコミュT:本インタビューでは現在連載中でコミカライズの第1巻が出たばかりの「宵を待つ月の物語」、そして8/6からカドコミで連載が始まる新作「神子と夜叉嫁」についてお話を聞いていきたい…のですが…
顎木先生といえばデビュー作「わたしの幸せな結婚」(以下:「わた婚」)で、小説、漫画化、アニメ化、実写映画化、舞台化、果てはパチスロ…と、メディアミックスをほぼ完全制覇している先生です。
そんな作家はそうそういないので、今回のコミカライズについて聞く前に、「自分の作品がそれほどの別メディアに派生していった時に何を感じたのか?」といったところから聞いていいでしょうか?

※顎木先生のデビュー作「わたしの幸せな結婚」の原作小説は既刊10巻(続刊中)。累計1000万部を突破しているヒット作 ©Akumi Agitogi, Tsukiho Tsukioka / KADOKAWA
顎木先生:そうですね…コミカライズもアニメも映画も、どれも視覚的な部分が小説より重要になってくる媒体だったと思います。そういった部分で、演出や構成など原作と違ってくる部分もいっぱいあって、それぞれに工夫していただいたところには刺激をもらっていました。
どれもビジュアルや映像で語るメディアだからこその気付きというか…私は小説を書いているので、それらをそのまま活かせるかは別になるんですが「取り入れられる演出効果的なヒントがあったら自分の小説にも取り入れていきたいな」という影響は凄くいただきました。
カドコミュT:特にアニメ化や実写映画化などが重なった2023年当時はとても忙しかったとは思いますが…楽しかったですか?
顎木先生:それは楽しいですよ(笑)。それぞれ本気で、作品をビジュアル化していただいていたので。凄く楽しかったです。
カドコミュT:そんな「わた婚」の〝メディアミックスほぼ制覇〟の最初の一歩は、スクウェア・エニックスさん刊のコミカライズだったと思うのですが、デビュー作がコミカライズされるということで、当時の気持ちや状況、いい思い出などありましたらお聞かせいただきたいです。
顎木先生:「わた婚」のコミカライズは…小説と別でいただいたので、ちょっと特殊だったというか…。最近では先に小説があって、その小説の担当編集さんから「コミカライズの話も…」ってなると思うんです。でも、「わた婚」の時はKADOKAWAの担当編集・I氏からお話をいただいて「小説として書籍になるんだ…」と喜んでいた一方で、別会社の方からコミカライズのお話をいただいて「え、漫画にもなるんだ⁉」となったという。
カドコミュT:小説と漫画それぞれが独立して進んでいく特殊な形だったんですね。弊社へのお気遣いは無しにしていただいて…ご自身最初のコミカライズにはどんな思いを?
顎木先生:今ほどコミカライズがたくさんあった時代ではなかったので、それはやっぱり嬉しかったです。コミカライズの提案をしていただいた最初の資料で、キャラデザインなどを見せてもらって大興奮した記憶があります(笑)。その後に小説用のイラストと合わせて調整もしていただいたんですけど…やっぱり「わた婚」コミカライズに関しては、初期の頃の特別な思い出がありますよ。
カドコミュT:先生は現在までに4作品(連載開始前の「神子と夜叉姫」を含めたら5作品)がコミカライズされていますが、自分の作品が漫画になるってどんなお気持ちですか?
顎木先生:そうですね…自分が想像していたままのビジュアル化なら嬉しいし、そうじゃなくても「自分が想像していたものよりもずっといい感じにビジュアル化されているな…」と思えたりするので、総じて嬉しいですよ(笑)。
カドコミュT:ビジュアルといえばですけど…先生の作品に出てくるメイン男性キャラって、ずっとカッコいいですよね。
顎木先生: (笑)。

※左から「宵を待つ―」の千歳(日常ver)、瑞李、そこそこの序列で夜花と関りを持つようになる果涯(カドコミュTイチ推し)。「宵を待つ―」で主人公に絡んでくる男子たちも、だいたいみんな(難アリながら)イイ男。
カドコミュT:コミカライズされた彼らを見た時に先生はどんなことを感じてるのか、聞いてもいいですか? 「この男…やっぱ良いな」ってしみじみ思ったりします?
顎木先生:小説イラスト用のキャラデザイン時点で「良いな…」って思ってばかりなんですけど、コミカライズではさらにいろいろな表情を見せてくれるので、そこをまた「カッコイイな」と思っています。「この時、主人公(ヒロイン)にそういう表情を見せているんだな…」というところが見られて…背景にある二人の関係性も感じられるので、ときめきますね。
■メインの男女にはどちらにも「弱み」を持たせる
カドコミュT:顎木先生はカッコいい男性キャラだけじゃなく、主人公も含めてときめくというか、美しいというか…読んでいて「幸せになって欲しい」と思わせる男女のマッチングが凄く上手だと思います。どうやって主人公たちを設定してるんですか?
顎木先生:まず最初に「自分の好きな要素をいくつかは入れたい」というのはありますね。外見でも性格でも。そこに自分が萌えられるかどうかは大事だなと。
その上で考えているのは、それぞれの「弱み」ですかね。ヒロインも相手の男性キャラも、どちらもちょっと弱みがあって…というところは凄く考えているかもしれません。
最初のキャラ設定の時点ではあまりそれを考えないんですけど、プロットを作る段階で、話の流れに合わせて各キャラクターのちょっと弱いところみたいなものを入れていこうと考えています。
カドコミュT:ちなみに、最近の世間では、ひたすら強い人が主人公という作品も多くなってきたりすると思います。超強いので「私は私で生きていく」ができるし、それにそこそこ優秀な相手が付いてきてくれる…みたいな。先生の考える魅力的な男女のバランス論みたいなものって聞いてもいいですか?
顎木先生:うーん…大前提として、私は割と恋愛メインな作品を書いていると思うんですけど、その考えとして「強すぎて互いに別々な方向を向いている二人って恋愛にならないな…」というところがあると思います。その上で「恋愛をしている二人は対等でいて欲しい」…みたいなところも若干あるというか…。
カドコミュT:確かに、先生の描く男女って互いに弱みもあるし、それをある程度の段階で共有するし、最終的にきっちり五分五分で支え合う感じになっていきますよね。
顎木先生:男子でも女子でも「どちらかが強くて、どちらかが引っ張られていくだけ」みたいなのは、今となってはちょっと時代錯誤というか、何かしらの不快感を生んでしまうのではと思っていたりして…その結果として自然に互いを支え合っていく方向にはなっていきますね。
■本棚は妖怪とか怪異ばかり。普通の恋愛ものは全然なかった
カドコミュT:ちなみに先生がこれまでの人生で物語を読んだり見たりして憧れた男女っていたりしたんですか?
顎木先生:それがあんまりいなくて…。本当に申し訳無いことに、本棚が妖怪だの何だのに染まり切っていたので、あまり恋愛ものに目を向けていなかったんですよ(笑)
カドコミュT:本棚が怪異でいっぱいだったんですか…。
顎木先生:普通の人が出てきて、普通に恋愛している漫画みたいなものが本棚に全然無くて…。恋愛ものに関してはWEB小説を知って、そこに異世界恋愛系みたいな作品がいっぱい載っているというのを知って、それらの作品とかそのコミカライズとかで、ちゃんと恋愛ものを読むようになりまして、それまではあんまりだったんですよね…。
あとは乙女ゲームを少しプレイしていたくらいですけど、本当に恋愛ものに全然興味が無かったんです(笑)
カドコミュT:ほう…乙女ゲーム。ぜひそのおすすめ作品をお聞かせ願いたいです。
顎木先生:いろいろありますけど…そうですね…「わた婚」で異能という要素を入れるきっかけになった作品はあって「NORN9 ノルン+ノネット」という作品ですね。SF的な世界観も好きだし、超能力みたいな要素もあったのでそれが「いいな」と思って、「異能」という言葉にして「わた婚」に組み込んだみたいなところがあります。
カドコミュT:ちなみに、ネオロマンス系はハマらなかったんですか?
顎木先生:あー…「遙かなる時空の中で」とか「金色のコルダ」とかですよね。そちらは通ってこなかったですね。私は「Rejet」と「オトメイト」の作品ばっかりで、たまに「ブロッコリー」の作品をプレイする感じでした。
■「現代」とか「近未来」は昔から書きたかった
カドコミュT:さて、ここから現在連載中で7月にコミックス第1巻が発売されたばかりの「宵を待つ月の物語」のお話を伺っていければと思います。こちらは原作小説としては2024年に発売されており、先生が長年温めていた「現代ファンタジー」ということなのですが…いつ頃から「現代ものを書きたいな」って思っていたんでしょう? そのきっかけなどをお伺いしてもいいですか?
顎木先生:現代とか近未来とかは、割と最初から書きたかったものなので…。
カドコミュT:近未来⁉
顎木先生:いや(笑)、近未来って言うと大袈裟ですけど。やや未来かな。先の乙女ゲームの話にも繋がるんですが、ほぼ現代だけど少しSF要素あり…みたいな作品がもともと自分が書きたかったものだったんです。
カドコミュT:意外…「わた婚」や「人魚のあわ恋」の明治大正感をはじめ、顎木先生の作品には割とストイックな、ある程度昔っぽい時代のイメージが強くて…。「人魚のあわ恋」のあとがき文でも、明治大正の帝都もので「初心に帰った」的なことをおっしゃられていたじゃないですか、そこから現代ファンタジーは結構衝撃的だったというか…。
顎木先生:それこそ「わた婚」の明治大正とかよりも先に書きたいと思っていたのが現代ものでした。むしろ私の中では明治大正ファンタジーの方が特異点みたいなところがあって(笑)、だから現代ファンタジーは、自分にとって本当の初心なんですよね。私はSF…というかほんのりSFみたいなものが好きでして。SFもいつか書きたいところではあるんですけど…。
カドコミュT:おぉ……そうだったんですか。ちなみに「宵を待つ月の物語」はいきなりSFには振らないですよね?
顎木先生:(笑)振らないですよ、ファンタジーです。
■現代人が主人公だと…会話が弾むし、書きやすい!
カドコミュT:良かった…いきなり宇宙人とか超科学とか出てきたらどうしようかと思いました。さて、今作で、先生は現代ファンタジーを執筆したわけですが、ご本人的な感覚はどうでした? 読んでいる側としては、現代劇になっただけでだいぶPOPな感じになったな…と。原作小説の目次を見るだけで「わた婚」は「一章 出会いと涙と」だったのが、今作での「一章 宴会なんて、二度とごめんだわ」の変わりぶりに衝撃を受けてましたからね。
顎木先生:(笑)書いていてもそんな感じですよ。現代人の物語なので、登場人物同士が話す話題もいくらでもあるし、ポンポン喋るから会話も弾むし。
カドコミュT:全体的にテンポが早くなった感じがしますよね。
顎木先生:私は 明治大正の、普段からモダモダモダモダしている二人をずっと書いてきたので、「何て書きやすいんだろう!」「会話が弾むって素晴らしい!」「現代人、凄い喋る!」って(笑)。そう思いながら書いてました。
カドコミュT:「現代劇だからそうなった」という以外に先生が意図的に明るくしようと思ったみたいなところは無かったですか?
顎木先生:いや、自然とそうなるだろうなとは思ってましたが…それ以外は無いです。現代劇なのでキャラクターもそんなに暗いキャラではやりたく無かったので、明るくはなるだろうなとは思っていましたし…結果やっぱり明るくなったな、と。
■「和風」モノが好きなのは、子供の頃に怪談が好きだったからかもしれない
カドコミュT:そんな今作ですが、現代ファンタジーではありながら、先生の特色ともいえる和風感はしっかりありました。舞台の柱である社城家のお屋敷がどこかしら日本の古き良き田舎っぽいというか…ここら辺は何か意識してるんでしょうか?
顎木先生:もともと、現代ファンタジーでも和風なモノを作りたかったので…残りましたよね(笑)。社城家という家の中の因習みたいなものもちょっとあるので、そこにいろいろな和風的なワードを盛り込んでいくと、やっぱり和風に寄っていきますよね、と…。
カドコミュT:古風な日本の情景みたいなものが、先生の好みとしてはありそうだな…って思ってるんですがあってますか?
顎木先生:確かに好きで書いているので、まぁ「まず和風を書きたいな」っていうのは何を書くにも前提としてけっこうありますね。
カドコミュT:ちなみに、先生はどんなきっかけでそんなに「和」が好きになったんです?
顎木先生:あんまりコレっていうのが思い浮かばなくて…。中学生くらいの頃から好きだったんですけど、何で好きになったのかは全然思い出せないんですよ。
小学生の時は和風とか考えてなかった気がするんですけど、中学の時には和風というか…中華風も含めてオリエンタル系というか…そんなアジアンな感じが好きになっていて。でも、それがなんでだか分からないんですよね。
自認したエピソードとしては中学の時に、図書館で「天山の巫女ソニン」(菅野雪虫著 ※講談社児童文学新人賞受賞作)っていう本を借りて、家に持って帰った時なんですが。その時に家族から「その本、タイトルで選んだでしょ?」って言われて、「…はい」って(笑)。多分その時には巫女とかそういうのが好きだったんですよね。
でも、なんでそうなったのかは思い出せないんです。本棚もいつの間にか妖怪とかが出てくる漫画に占められていて(笑) それがなんでなのか自分でも分からないんですよね…。
カドコミュT:先生が小学生高学年の時に好きだったのは「十二国記」とか「彩雲国物語」だと過去のインタビューで読んだんですが…でもこれもアジアンな作品じゃないですか。そこから「和」にちょいずらししてる今の感じは…何で?
顎木先生:そうですよね…「十二国記」とか「彩雲国物語」もゴリゴリ中華風なんですよ。でも、いつの間にか和風にいっていました。
カドコミュT:もうちょっとだけ悪あがきして、先生の「和風」好きについて掘っていいですか? 顎木先生って神社・仏閣とか好きですか?
顎木先生:好きですけど…何で好きになったのかやっぱり覚えてないですね。
カドコミュT:うーん…、戦国時代とか幕末とか好きですか?
顎木先生:どっちかというと日本史の中では…あんまり好きな方では無いですね。
カドコミュT:平安時代が好き?
顎木先生:そうですね平安も嫌いじゃないですし、どちらかというと古代日本とか。飛鳥とか奈良とかが好きかもしれないです。
カドコミュT:そうですか…超ダメ元な質問なのですけど、ご自身で霊体験とか、おじいちゃんおばあちゃんから言われてた不思議な教えとかあったりします?
顎木先生:無いですね。
カドコミュT:無いですよね…。
顎木先生:(笑)ただ、怪談とか怖い話みたいなのは嫌いじゃなかったです。昔はTVとかで心霊番組とかやってたじゃないですか。小さい頃に、家では親がそういう番組をつけていたんですよね。幽霊がババーン!って出てくる怖いシーンは見たくなかったんですけど、そこまでの雰囲気とか、幽霊が出てくるまでの物語みたいな所にはかなり興味があったので……そこからかもしれないですね、私が和風とかに行ったのは。
■記憶に残る怖かった怪談は、童謡「さっちゃん」の話
カドコミュT:おぉ…それじゃないですか! 先生の和風好きのルーツは怪談かもしれない…ちなみにそんな先生に「この怪談は超怖かった」なヤツを聞いてもいいですか?
顎木先生:えーと…昔、「花子さんがきた」っていうアニメがあって、その中で「さっちゃん」の話があったんですよ。童謡の「さっちゃん」ってあるじゃないですか。で、そのさっちゃんが夜、足を取りに来るみたいな噂話のエピソードで…。
カドコミュT:...めちゃくちゃ嫌な話ですね。
顎木先生:さっちゃんのその噂話を聞くと、夜な夜なさっちゃんが現れてカマで足を切りに来るんですけど、それには対処法があってそれをしてると助かる…みたいな話で。そのエピソードの主人公はその話を聞いて、でも対処法をとらずに寝ちゃって…。来るんですよ。さっちゃんが足を取りに。
カドコミュT:その話が怖かったと?
顎木先生:そのシーンの主人公の部屋の間取りが、当時の自分の部屋にそっくりだったんですよね…。ベッドとか机とかの配置とか。それで「自分の部屋にそっくり! 怖い!!!!」って(笑) それが凄く印象に残ってます。
カドコミュT:何か…可愛いですね。
■マスコットキャラクターが欲しくて書いた「ゆきうさ」
カドコミュT:さて…「宵を待つ-」が現代劇でちょっと明るいよね…という話に戻りたいのですが、明るさの1要因として、主人公の夜花と千歳のキャラや、やり取りの軽妙さは…後に取っておくとして、マスコットキャラ的な「ゆきうさ」も印象的ですよね。口が悪いところも含めて可愛いんですが…。

※謎多き「ゆきうさ」の登場シーン(第1話)。ツン可愛いし、伍号までいる。コミックス第1巻の巻末おまけ漫画曰く「大怪異」らしい。
顎木先生:ありがとうございます。
カドコミュT:これは先生、けっこう狙ったのでは??「宮廷のまじない師」で出てきた猫と鳥の式神とかも可愛かったんですが、今回のゆきうさは…けっこうなレベルで商業キャラ的な完成度が…先生、やってますよね?
顎木先生:マスコットキャラクターはずっと欲しかったので、デフォルメしてもらって良い感じになるようなキャラクターを書こうと思ったというか。
「宮廷のまじない師」の式神はどちらかというとリアルな鳥と猫みたいな感じだったので「喋るけどそこまでキャラクターじみてはいない」というところがあって。それだとマスコットキャラクターとしては微妙かなというところがあったので…今回はマスコットキャラクターっぽい感じにしました。
カドコミュT:大分振り切ってると思います。コミックス第1巻のおまけ漫画もゆきうさメインでしたし…二年前、原作小説発表タイミングでのインタビューで小説の編集担当・Kさんからもそのキャラクター性に何かしらの欲を感じました。
顎木先生:(笑)そういうキャラがいたらグッズ化とかはしやすいですよね…とは思っています。「わた婚」とかはそういうキャラが一切いなかったので、どうしてもグッズ化といってもメイン男女の二人しかないみたいなところがあって、もう少し軽いもの…「この作品といえばこのマスコットだよね」みたいなシンボル的になってくれるようなキャラは欲しかったので、それは同時にグッズ化しやすいですよねとは思ってました。
カドコミュT:ちなみにゆきうさが壱号から伍号までいるのも、ビジネス戦略ですか?
顎木先生:いやいやいやいや、それは小さいのがいっぱいいたら可愛いかなと思っただけですよ(笑)
■〝中身ジジイ〟少年を書くなら、大人姿も必要だと思った
カドコミュT:そうですか…でも可愛いですよね、ゆきうさ。さて、話は変わって、大分前に先生の書く男性はカッコイイな…な話をしましたが、今回の作品でびっくりしたことのもう一つが、メイン男子・千歳が「いつもは中学生美少年、ときどきちゃんと20代風美青年」っていう「変身ヒーロー」だったことだったんですけど、これはどこで思いついて、どれくらい先生の趣味が反映されたキャラだったんですか?…って聞いてもいいですか。
顎木先生:そうですね…、私も少年キャラは好…いや、これはあくまでもキャラクターとしての話なんですけど。
カドコミュT:当たり前じゃないですか、先生! あくまで、創作キャラクターとしての話ですよ!
顎木先生:(笑)そういった少年な強キャラは好きなので、二つの姿があったら二度おいしいですよね…っていう考えはありました。世の中の物語において、いわゆる「ロリババァ」とか「ショタジジイ」みたいな属性ってあるじゃないですか。
カドコミュT:実際中身は超大人なヤツですね。

※夜花と千歳の出会いのシーンの一幕(第1話)。見た目は中学生の千歳だが、不老不死なので…少なくとも戦前生まれ以上にはジジイだと思われる
顎木先生:ああいうキャラが好きだったので、それをずっとやりたかったというのはありました。でもずっと見た目が子供のままの「年下ヒーロー」みたいなのは…女性向けだとあまり王道ではないし、好きな人が限られてくるのかなと。好きな人は凄い好きだと思うし、私も好きなんですけど…「皆が好きなモノ」にはならないかなと思いまして…だったら大人との二つの姿を持っているっていうことにしちゃおうみたいなところがありましたね。
カドコミュT:業が深い贅沢セットじゃないですか。
顎木先生:(笑)
カドコミュT:でも、確かにときどきちゃんと大人の姿になって安心させてくれた方が、読者は付いていきやすいかもしれませんね。
顎木先生:やっぱり「ただ中学生にときめいている」という感じになると…大人の読者の方も罪悪感を抱きかねないかなと。なので「本当は大人だよ!!!」って分かる方が安心して楽しんでいただけるのではないかというところがあります。
■「何でもあり」がやりたくて書いた「社城家」の設定
カドコミュT:そうですね。マジもんの中学生に大人がときめくのは…現代ではちょっと憚られるかもしれませんし…。さて、2年前の小説版リリース時のインタビューを拝見したところ、「宵を待つー」はまず初めに、今作の舞台的な柱になる「社城家」の設定から入ったと読ませていただきました。呪われ変身ヒーローな千歳や、神様的な何かから謎の液体を飲まされて「まれびと」(←まだ詳細は語られてないけど何か凄い)になった主人公・夜花のキャラ設定より先にそっちを作ったというところに驚いたんですが…これは何故だったんでしょう?
顎木先生:この作品では「何でもあり」がやりたくて、それで作ったのが社城家の設定だったんです。その中にいるキャラクターは何でもありで、どんな属性のどんな力を持っている人がいても良い。そんな物語を作りやすくしたというか…。その結果で、社城家という舞台があって、その上にキャラを築き上げるみたいなところはそんなに難しくなかったし、自分が好きなものを入れられるというところで良かったと思います。
カドコミュT:今までの作品も、読んでる側としてはキャラクターの魅力にまず目がいってたんですが…どれも最初は舞台設定から作り始めていたんですか?
顎木先生:そんなこともないんですが…そうといえばそう(笑)。まず、どんな世界観の話を描きたいかというのが一番初めにありますね。
和風だったら和風を書きたいし、中華だったら中華を書きたいっていうのが先にある。なので「舞台が先」といえばそうかもしれません。
でも設定とかはその時にはガチガチにはしないですね。まずは和風とか中華とかぼんやりした舞台の上でどんな関係性のキャラクターを作りたいか。そこに合わせて設定を盛り込んでいくというのと同時進行というか…細かい設定やキャラクターも、だいたい並行して考えてはいます。
■「つがい」は共依存。「晴×瑞李」の危うい関係
カドコミュT:「宵を待つー」は「つがい」という概念が出てきます。互いに互いを居場所と考える…先生の得意な〝魅せる男女〟の新たな形だなと思っているんですが…。
顎木先生:いや、 「つがい」はむしろ脇の二人なんですよ。
カドコミュT:えぇっ!そうなんですか? メインの夜花と千歳ではなくて、社城家の序列1位の瑞李と、夜花の同級生・晴のサブカップルなんですね。
顎木先生:今作では二つの男女の組み合わせを対比にした感じにしたいなと思っていたんです。「つがい」って言うと…最近だと「共依存」っぽい感じがするので、脇の瑞李と晴は「つがい」と称して若干危うい空気を出していく。一方で、メインの夜花と千歳はそれと対照的に…とは言い切れないですが、互いに考えていることがあって、それを徐々にすり合わせて行くような関係性になるように…みたいなことを考えて設定しました。やはりメインを輝かせたいので…。

※顎木先生の話を聞くと…絶妙に思慮とセンスが無さそうに見えるサブカップル(晴と瑞李)の出会いのシーン(第1話)。ちなみに右端で無視されているのが主人公の夜花。
カドコミュT:なるほど…ちなみに晴だけには、先生が今まで書いてきた明治大正の帝都女子なテンポを感じます。
顎木先生:晴は家庭事情的に強く出れなくなった女子…っていう感じで。端的に言ってしまえばコミュ障ですよね。
カドコミュT:めちゃバッサリ言いますね…。
顎木先生:(笑)なので、そんなに口数も多くないし、そんなに他人とキャッキャしないという。でも、サブの二人も危うい依存しているような雰囲気から、今後成長していく、そんな関係性の変化みたいなものが徐々にありつつ…ってところは徐々に見せていきたいなと。彼らは彼らで成長していきます。
■原作の先の方では、キャラクターが盛り盛りに増えてます
カドコミュT:それは楽しみですね。さて、ここで染屋シノ先生によるコミカライズ版「宵を待つ―」で一番好きなコマについて聞いても良いですか?
顎木先生:千歳が大人の姿になるシーンですね。小説でも割と際立つように書いていたんですが…漫画ではビジュアル化していただいて、魅力をマシマシにしていただいているので、お勧めのシーンです。



※大人verの千歳が初登場する第4話の引き(終わり)。ちなみに新月の日の千歳は翌昼も大人なので、第5話では大人な彼(昼はざっくりVネックニット姿、ドライブエスコートもできる)をじっくり楽しめる。
カドコミュT:最後に「宵を待つ―」の今後の見どころみたいな話もお伺いしたいのですが…先生はちょうど今、原作小説の第2巻の執筆が山場を迎えていますよね。作品ファンの方々へのメッセージみたいなものをいただけますか?
顎木先生:私は面白いけど、読者の方はどうかな…というところなんですけど(笑)。原作2巻からは、キャラクターが盛り盛りに増えます。それによって読者の方にも新しい好きなキャラが生まれたりするのかな…とも思うし、登場人物が増えることで話に深みが増す面もあると思うので、楽しみにしていただければ幸いです。
カドコミュT:ちなみに私個人はゆきうさに夢中なんですが、多分いずれ裏設定っぽいところも明かされますよね? アレってコミック第1巻のおまけ漫画で「大怪異」とか書かれてましたが…けっこう偉い存在なんですか?
顎木先生:ゆきうさが何で千歳と一緒にいるのか…みたいなところはこれから明かしていく設定としてありますね。ゆきうさは千歳の指示には従っているけど、そこは主従関係ではないところを徐々に出していきます。ゆきうさ自身はそんなに偉くはないんですけど、協力体制というかそんな感じの設定はありますよ。
■【マンガ好きおまけ雑談01】:SF漫画、「ワールドトリガー」と「地球へ」が凄い
カドコミュT:ありがとうございます。では、インタビューの途中ですが中締めとして全然関係ない話を…、「カドコミュ」インタビューのおまけとして、ただの漫画好き雑談をしたいのですが、我々が用意した100個のトークテーマを1つだけ選んで、付き合ってもらっていいですか?
顎木先生:私、そんなに漫画いっぱい読んでないかもなのですが…さっきまでのインタビュー内容に絡ませるとして「46:このSFが凄い」で喋ってもいいでしょうか?
カドコミュT:お願いします!
顎木先生:ガチガチのSFは得意ではないのでアレなのですが…近年ですと「ワールドトリガー」(葦原大介 作)がめちゃくちゃ好きです。あの作品ってキャラクターも設定も膨大ですよね。なのにゴチャゴチャしないし、全部上手くハマっていくじゃないですか…。絶対に真似できないんですけど、ぜひ真似したいなって読むたびに思っています。
カドコミュT:物語を作る人間として、その全体像というかパッケージ感に凄みを感じていらっしゃる感じですか?
顎木先生:設定がとにかく上手くできていて「凄いな…」と毎回感心してしまうんですよね。ストーリーは割と淡々としていて、そんなに起伏が激しくなさそうな感じなのに、盛り上がるところはちゃんと盛り上がる。その「決めるところは決める」みたいな演出とかお話の作り方が本当に凄いなと…そういうところが本当に大好きです。
カドコミュT:ちなみに推しキャラとかはいたりしますか?
顎木先生:いや…「このキャラが一番!」というと…。
カドコミュT:ちなみに、主人公の一人の久我遊真くんって、けっこうな少年キャラですよね? 好きですか?
顎木先生:…うーん…?
カドコミュT:すいません、多分真意を勘付かれてますが…「宵を待つ—」の千歳くんも普段少年だなというところで…先生が少年キャラ好きなのでは?な話をもうちょっと掘れるかな、と…。
顎木先生:(笑)いや…でも好きですよ。「見た目が少年」な強キャラは好きですから。
カドコミュT:ありがとうございます。ちなみに他にSFで好きな作品あったら聞いてもいいですか?
顎木先生:これはあちこちで言っているんですが「地球へ」(竹宮惠子 作)ですね。
私は漫画より先に劇場アニメ版(1980)のノベライズから読んで、その次にTVアニメ版(2007)を見て、その後に原作である漫画版(1978~1980)を読んだんですけど。どれも良かった…。
カドコミュT:「地球へ」は何で見るかで内容がそれぞれ変わってきますからね。
顎木先生:どれも違うんですけど、劇場版のストーリーは短くまとめてるし、カップリングも違うし、割とめちゃくちゃやってるんですけど…それはそれでも主題は外してないんですよね。
TVアニメ版は結末を丸く収めてるな…って。これは原作の漫画版を読んだ後に感じたんですが、漫画版の方は主人公のジョミーが先に死んじゃうのでラストまでいないっていうのが…それはそれで話の展開としては全然いいし、論理としては凄く分かるんですけど、主人公だから最後まで活躍して欲しかったみたいなところもあって…そこをTVアニメ版は救ってくれていたので好きでしたね。
カドコミュT:原作の漫画版は最後に読んだんですね。
顎木先生:内容的には原作から一番離れているところから読んで、その後にTVアニメを見て、最後に原作を読んで「そうだったんだ!」ってなったという(笑)。「地球へ」大好きです!
カドコミュT:ありがとうございます! 後編では先生が初めて漫画先行で制作した新作「神子と夜叉嫁」と、先生のストーリークリエーター的な成り立ち…っぽいところについても聞かせてください。

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染屋シノ(著者) 顎木あくみ(原作) 左(キャラクター原案)
あらすじ
「わたしの幸せな結婚」著者・顎木あくみの話題作をコミカライズ!!
高校生の坂木夜花の住む町は、魔を退治する神祇官の一族である社城家が絶大な権力を持つ。両親を亡くし祖母と暮らす夜花は、祖母の指示で社城家で行われる宴会にかり出されたことをきっかけに、不思議な美しさの少年・千歳と出会って……!?
新たな力の目覚めと少年との邂逅、孤独な少女は怪異の世界へ――。
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