漫画「私を喰べたい、ひとでなし」ができるまで 苗川采先生1万字インタビュー!前編

全国の漫画ファンの皆々さま、おはようございます。
カドコミュのTです。
カドコミの連載作家さんや関係者もろもろとコミュニケーションをとって、できれば読者の皆様とその熱量を共有しながら、作品を盛り上げられれば…と、この取材型記事媒体「カドコミュ」をやらせていただいております。
今回はそのインタビュー第二弾として、今秋をきらめくアニメ絶賛放送中の「私を喰べたい、ひとでなし」の苗川采先生にお付き合いいただきました。
原作者でしか語れないアニメの見どころや、同作品がアニメ化に至るまでのストーリーを根掘り葉掘り聞かせていただいたので、是非最後までお付き合いください。
ちなみにまだ本作品を全く知らない方々に、「私を喰べたい、ひとでなし」とは…

海辺の街にひとり暮らす女子高生・比名子(ひなこ)は、凄惨な過去の記憶に囚われ、海の底にいるようないきぐるしさを覚える日々を送っていた。
そんな彼女の前に、ある日汐莉(しおり)と名乗る海色の瞳をした少女が現れ…。
「私は君を食べに来ました。」
「君が美味しく育つまで、私が君を守ってみせます。」
この邂逅がもたらすのは破滅か、それとも――。
(カドコミより)

という、怪異ホラーの不穏さと美しい少女たちの百合感が入り混じる物語。
アニメでは瀬戸内の海沿いを舞台に、陰のあるヒロインたちのやり取りとその機微に目が離せなくなる…見応えズッシリな妖怪×人の巨愛譚です。漫画もアニメも是非見てくださいね。
では、インタビュー始めさせていただきます!
■苗川先生の「初恋アニメ」は『ローゼンメイデン』
カドコミュT:苗川先生、初めまして。今日は現在絶賛アニメ放送中の「私を喰べたい、ひとでなし」についてお話をお聞きしていきたいのですが、そのアイドリングとして…まずは苗川先生が人生で初めてガチハマりした「初恋アニメ」についてお聞きして良いでしょうか?
苗川先生:宜しくお願いします。これ、質問状にあったので、事前にめちゃくちゃ考えました(笑)。今回振り返って子供の頃は本当にいろんなアニメ見てたなと思うんですが…。でも、そんな中で「初恋」っていえるぐらいって何だろうと思うと、多分私が自分で買った円盤的なもので1番古い「ローゼンメイデン」だと思います。1番最初にオタク自我が芽生えて「買いたい!」って思うぐらいハマったのはこれだったと思うので。
カドコミュT:意思を持ったアンティークドールたちが戦う「アリスゲーム」を描いた人気シリーズですね。
苗川先生:はい。お人形さんではあるんですが、『女の子いっぱい』っていう要素では、今の自分の作品のルーツでもあるのかなと思っていたりします。
カドコミュT:円盤は揃えてたんですか?
苗川先生:家にあったのはOVA的なもの1個だけで、多分すごい若い時に、一生懸命お小遣いを貯めて買ったのかなと。原作漫画は一応全冊揃えてました。
カドコミュT:「わたたべ」(※「私を喰べたい、ひとでなし」の略称)の要素で先生がおっしゃっている「仄暗」というほどでは無いかもですが、「ローゼンメイデン」もけっこうシリアスな作品ですよね。
苗川先生:そうですね。アニメと原作で展開が違ったりしてるんですけど、結構シリアスというか…。お人形さんなので「死ぬ」と言うわけではないと思うんですけど、バトルから脱落すると、その子は喋れなく、動けなくなっちゃったりするので…。「わたたべ」が可愛い絵柄でシリアス……みたいなところで描こうとしているのは、多分昔メイデン好きだったからかなとも思います。
カドコミュT:差し支えなければ好きなキャラクター(ドール)とか、好きなシリーズも聞いていいですか?
苗川先生:翠星石ちゃんっていう双子がいて、ちょっとツンデレっぽい感じの子がいるんですけど、私はその子が一番好きでした。その子には、双子の片割れの蒼星石ちゃんっていう子がいて、まあ、何やかんやでいろいろあるんですが、「本当だったら仲がいいのに、なんで……」みたいな感じの展開が、多分当時すごい刺さったんです。
カドコミュT:まぁまぁ、ビターな展開に刺さってますね…。
苗川先生:言い方がすごい悪いかもしれませんが、可愛い女の子がちょっとなんというか…辛い目とか、可哀そうなことになっていたら「ああ…」みたいな感じで引き込まれるところがありまして、「いいな」って思っちゃうんですよね。
カドコミュT:ちょっとずつ「わたたべ」を感じますね…。他に受けた影響とかはありますか?
苗川先生:こっちは「わたたべ」では全然描いてないんですけど、私は服のフリルとか描くのが今も結構好きで、多分そういうのも「ローゼンメイデン」を見て、好きになったのかなって思います。
カドコミュT:なるほど。「ローゼンメイデン」はフリフリですもんね。
苗川先生:フリフリですね(笑)。ドールはお金がかかるんで、手は出せなかったんですけど。ああいった可愛い服をめっちゃ見てました。
■百合の目覚めは「マリア様がみてる」
カドコミュT:では、ここから本筋に入らせていただきますが、苗川先生が「わたたべ」のアニメ化にたどり着くまでのキャリアについてお伺いしたく、漫画家を目指す前、幼少期からの遍歴をお聞きしていいですか?
苗川先生:物心がついた時には、もう絵が好きだったので、いつ、どんなきっかけで絵を本格的に描き始めたっていう記憶は…ほぼほぼないぐらいです。初めてコマを割って漫画を描いてみたのも…多分小学生の時にノートに鉛筆で描いてたのが一番古い記憶かな…というところです。
カドコミュT:早い!ちなみに「わたたべ」には百合な世界観だったり、仄暗い感じだったり、妖怪だったり…いろいろな要素を感じるのですが、その頃に好きだったもので「わたたべ」に通じるものってありますか?百合は…多分まだ早いと思うんですが…妖怪とか好きでした?
苗川先生:そうですね………すごいふわっとした記憶なんですけど…なんか小学校の頃の文庫本とかを置いてるところにあった水木しげる先生の妖怪の絵だけ載ってる…みたいな本がすごい好きでしたね。水木先生の絵に「こんなにも描き込めるんだ」…っていう思いもあって、それで「妖怪っていいな」って思った記憶があります。
カドコミュT:水木先生の絵を模写したり?
苗川先生:模写は…………
カドコミュT:してないですね?
苗川先生:そうですね(笑)。多分、模写なら当時は少女漫画ばっかりしてました。
カドコミュT:時期がズレるかもですが、さっき話に出ていた「ローゼンメイデン」にハマった時、そのキャラは結構描きましたか?
苗川先生:それはもう…めちゃくちゃ描きました(笑)。すごい描きましたよ。はい。
カドコミュT:ちなみに…「わたたべ」に感じる百合な世界感はいつ頃先生のアンテナに引っかかってきたんでしょうか?
苗川先生:私にはお姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんが「マリア様がみてる」っていう小説を買っていて、それを読んだ時に何か凄い…がっつり恋愛ってわけじゃないんですけど…女の子同士のなんかこう繊細な関係性っていうのが描かれてたんです。
カドコミュT:それまで読んできた少女漫画とまた違うものを感じた、と?
苗川先生:そうですね。それがまた小説だったので、何というか…より心理描写とかも細かくて、多分それを読んだのが自分の百合文化の始まりかもと今は思っています。
カドコミュT:ほう!では、もう一方で「わたたべ」っぽい「仄暗」要素はどこで先生の中に入ってきたものなのでしょうか?多分、「ローゼンメイデン」好きに加えて、さらに何か別のきっかけもあったのかと…。
苗川先生:ん……。「わたたべ」を描く前に、よく見たり、描かせていただいていたのが「艦隊コレクション」と、あと「東方Project」だったんですけど、その2作品が、女の子がいっぱい出てきて、かつ人外的な要素もあって、なおかつ両方とも世界設定に余白を残してくれている感じの作品だったんですよね。その各キャラ同士の関係性に…ちょっと薄暗い何かを勝手に読み取ってしまい、そんなものを描いていたりしました。
■訝しんだ編集K氏との出会いと「もっと仄暗く!」なオーダー
カドコミュT:なるほど…で、ここで一つ気になるのが「わたたべ」4巻のあとがきで明かされた「わたたべ」の初期プロットになってくるんですが…。あのプリキュア的な幼さというか、ポンコツコメディタッチな比名子と汐莉の姿が衝撃的で……あれは何だったんですか?
苗川先生:自分は、仄暗いものを描いたら、その反動で「すごい明るいものを描きたい」っていうのを交互に繰り返す期間があるので、それで当時すごい明るい「わたたべ」的なやつを描いたんです。でも、担当のKさんに声をかけていただいたきっかけが、かなり暗い作品だったこともあり……じゃあ「暗いものも全然好きなので、そっちでやります」っていう形になった記憶があります。
カドコミュT:その記憶は…担当編集K氏も合ってますか?
担当編集K:はい、合ってます。
カドコミュT:ではちょっと、ここから苗川先生と担当編集K氏の出会いをちゃんと掘らせていただければと思うんですけれども、初めにKさんからのコンタクトがあった時ってどんな感じだったんですか?
苗川先生:メールでしたね。
カドコミュT:ほう…。K氏、当時どんなラブレターを書いたんですか?
担当編集K:多分メールを遡ればあるんですけど…ちょっと今、恥ずかしすぎて見れないですね。
カドコミュT:では、苗川先生はそのメールを…
苗川先生:そうですね…どんな方か何もわからないまま「本物かな??」と思いながら、お話をいただきました。
カドコミュT:(笑)その後は「とりあえずプロット作りましょうか。一旦読み切りを描いてみて…」みたいな感じだったんでしょうか?
苗川先生:いや、「そのまま連載を始めよう」というお話だったので。
カドコミュT:グイグイじゃないですか、K氏。
担当編集K:(苦笑)そもそも「電撃マオウ」っていう雑誌がまず読み切りっていうよりも、「やれるんだったら最初から連載企画で作ってくるといいよ」みたいな方針の編集部だったので、苗川先生の絵的にも「これは連載でいけるであろう」と思って、最初から連載の企画を作ってました。
カドコミュT:苗川先生、いきなり「連載やろうぜ」って言われた時どんな気持ちでした?
苗川先生:そうですね…初めて編集部の方に声かけていただいたので、やっぱり「この人、本物かな?」が抜けずに、一旦ちょっと電話番号とか調べたりして…。
カドコミュT:それはしたほうがいいかもしれませんね(笑)。
苗川先生:「漫画家になりたい」っていう思いは小学校の頃にはあったんですけど、当時、大人になった自分的には「趣味程度でもいいかな…」って思ってたタイミングだったんです。でも、せっかく声を掛けていただいたのだったら、描いてみたいなと思って「やらせてください」って、お返事したと思います。
カドコミュT:なるほど。最初はK氏を訝しみ、ある程度信用できるようになり…で、「じゃあ、どんな作品をにしようか?」っていう感じで…2人でやり取りを重ねるようになると思うんですけれども。
苗川先生:そうでしたね。
カドコミュT:最初の「わたたべ」のプロットの素…みたいなものはどんなところから生まれたんですか?
苗川先生:元々私はお話作りも好きだったので、発表してないにしろ、描きたいなって思っていた話はあったんです。その中から、最初に「描きたいんですけど」って言ったのは、「わたたべ」の方向性とは全然違う。男女ものというか、親子のファンタジーって感じの話でしたね。
カドコミュT:ほう!
苗川先生:で、それが無くなりなりまして。
カドコミュT:あ、無くなるんですね…。
苗川先生:色々話を詰めていったところ、私の作品の方向性的にはやっぱり「仄暗い女の子」をメインでいこうか?みたいな流れになったような記憶があります。
担当編集K:それこそ単行本10巻のあとがきのに書いてある「ボツ案②」で「父子ファンタジー系」っていうのがあったんですけど、最初これで企画を作っていて、連載用のネームも2話分ぐらい作ったんです。で、編集部で企画提出したんですが、「これじゃ…」みたいな感じで、当時の編集長に突っぱねられ、どうしようとなり…。そもそも苗川先生にお声がけをした時の作品が、仄暗いテイストの作品だったので、その方針で作ってみませんか…?っていう話をしたという。
カドコミュT:なるほど。ちなみにその「仄暗寄りのこのテイストで行こう!」ってなる前に、比名子と汐莉がわちゃわちゃしまくっている、先述のポンコツ女の子コメディ系初期プロットが生まれていた(単行本4巻のあとがき参照)はずなんですけなんですけど…あれはどうボツったんです?
苗川先生:そうですね。「仄暗」な方向性が決まる前に「『妖怪と人間の話』で行こう」とだけ決まった時があったのですが、それをどこまでシリアスにやっていいのか、やや日和りが入りまして…。女の子たちがわちゃわちゃっとする&ちょっと妖怪要素も出てくる…ような、フワっとグロい感じで行こうと思ったんですが…。
カドコミュT:でも、K氏から「もっと仄暗く!」と?
苗川先生:そうですね(笑)「仄暗くしましょう」ということで、じゃあ方向性は「どシリアスでいきます」って…多分そこから今の「わたたべ」になったかなって思います。
カドコミュT:なるほど…これは…K氏の采配、今となってはド当たりだったじゃないですか?
担当編集K:いやいやいや、苗川先生の発想のおかげですよ(笑)。でも、もしかすると当時の編集長が最初の企画をそのまま通していたら、「わたたべ」は生まれてなかったかもしれないので、これを言ったら苗川先生からするとたまったもんじゃないというか、いい加減にしろって感じかもしれないですけど、そこは1周回って良かったのかもしれないですね。
苗川先生:そうですねー。結果オーライということで(笑)。
■海外で初めて感じた「本当に読んでくれてる人がいるんだ」
カドコミュT:そうして本作の設定ができまして、連載開始となるんですが、そこからはスムーズに進んだんですか?
苗川先生:そうですね…私は勝手に打ち切りに怯えて、毎回毎回「大丈夫ですか?」て聞いてたんですけど、K氏は「大丈夫大丈夫!」って言ってくれていて、「ヤバいです」みたいなのは、私は聞かされず今に至っていますね。
カドコミュT:「わたたべ」は2020年に連載開始。翌2021年にはコミックナタリーで、注目作品としてピックアップされたり、百合ナビの百合漫画総選挙のストーリー部門で上位に食い込んだりと、すごく順調な感じで走り始めたように見える作品ですが。SNSなどで読者から言われた嬉しいこととか、「これ手応えあり!」って苗川先生が思った瞬間やエピソードがあったら聞かせてもらえますでしょうか?
苗川先生:いやいや…私、すごい心配症なので、未だに「手応えがあるぞ」とはちょっと思えてないんです。ただアニメ化が発表された時に、自分が思ってる以上の反応がSNSなどでいただけたので、「え、こんなにみなさんが見てくれてたんだ」って思えたのはありがたかったです。
カドコミュT:初サイン会は海外だったんですよね?そちらはどうでした?
苗川先生:今年に初めてサイン会をさせてもらったんですけど、それが台湾とワシントンっていう…。でも、実際そこで読者の方に会って「すごい楽しみにしてました」とか言ってもらったり、作品の感想とかを言っていただいた時に「ああ、『わたたべ』ってちゃんとみんなに好かれてるんだ、よかった」と思いました。
カドコミュT:国内でもサイン会をしたことが無かったのに、いきなり海外という。
苗川先生:そうなんです…。私はすごく心配なので、そのサイン会前日にK氏に「もし2人ぐらいしか来なかったら、さっと畳んでお酒飲みに行きましょう」って言ってたんですけれども、想定以上の方が来てくださりまして。台湾にもアメリカにも、海外にもちゃんと読者の方がいるんだったら、国内にも読んでくださってる方は本当にいるんだなっていうのを実感できました。
担当編集K:台湾のサイン会は、午前の部、午後の部みたいな形で、場所を変えてやったんですけど、その参加条件が「特別セット」みたいなものを買った方に参加権利がもらえる…みたいな感じのイベントで、300人ちょっとぐらいの定員枠だったそうなんです。それがWeb上で募集開始して5分ぐらいで全部完売したらしいんですけど…それを本番当日まで教えられてなかったという。
カドコミュT:それは「人が来なかったら、飲み行きましょう」って、不安になりますよね。でもすごいじゃないですか!後から「ものの5分でハケた」と聞いて、苗川先生、どうでした?
苗川先生:いやあ…ちょっと自分の心配症って直した方がいいかもなって思いました(笑) 。
担当編集K:いや、だめです。どうか謙虚のままで。
苗川先生:そうですね(笑)。K氏には常々「私が天狗になったら鼻っ面を叩き折ってください」って言ってるんで。
■ほぼ全部自分描き連載と、コミカライズをもう一本
カドコミュT:ちょっと話が作品に戻るんですけれども、僕は苗川先生が基本的にほぼひとりで原稿を仕上げるスタイルだと聞いて衝撃を覚えたんですね。今も…ほぼトーンの作業以外はやってらっしゃるんですか?
苗川先生:そうですね、トーンの指定以外は自分でやってますね。ひとりなので。
カドコミュT:さらに背景の描き込みもエグいということで…さぞ、しんどかろうと僕は思っているんですが、その苦労と言うか、努力と言うか…先生的には今いかがです?
苗川先生:描き込みたいっていうのは自分の趣味なので…。本当はもっとさっぱりさせた方が作業効率的にはいいんだろうなと思ってるんです。でも、結局描いちゃうし、「わたたべ」は自分の感覚で描いちゃってるところがあるので、アシスタントさんに「ここはこうして」って指示するみたいな手間を考えると…今は自分でやれてるので、それが効率良いかな…っていう感じでひとりでやってますね。
カドコミュT:締め切り前に後悔することはありませんか?
苗川先生:この背景がなかったら、今日は1日休みなのにな…と思いながら毎回描いているんですけど(笑)。ま、それでも今のところ締め切りを破ったことは無い…ですよね、K氏?
担当編集K:(笑)そうですね。何だかんだいつも前倒しで出してくれるんで、それこそ連載2本(FLOSレーベルにて「後宮一番の悪女」も作画担当で連載中)やってるのに、よくひとりでやれるな…と思いながら、原稿を拝見してます。
カドコミュT:そこなんですよ!人気上々の「わたたべ」をほぼひとり作業で執筆して忙しいはずなのに、なぜか苗川先生は「後宮一番の悪女」のコミカライズを2023年からFLOSレーベルで始めています。若干のワーカホリックっぷりを心配しつつも…これって何でやったんですか?(コミカライズを)「もう一作品やりましょうや」って持ってきたK氏をヒドいとか思ったりしなかったんですか?
苗川先生:そうですね。私としては毎月「わたたべ」を1話分書いていて、何というか…生活に自由時間が多すぎるなと思ったりしていまして。なので、余裕で描ける…とは言わないんですけど、もう1本お仕事としてもらえるんだったらありがたいし、やってみたいな…っていうことで始めた感じです。
カドコミュT:バキバキにタフじゃないですか。
苗川先生:いやいやいや!そんな、全く違うんですけど…。
カドコミュT:では、そんな「後宮一番の悪女」を始めて良かったなと思う所、今の自分の糧となっている所など、感じるところがあればお聞かせいただいてもいいですか?
苗川先生:そうですね。あの漫画の作り方がオリジナルとコミカライズって全然違うなと思って、原作が小説なので、原作からその要素をどれだけ取捨選択していいのかなっていうところは、凄い勉強になっていると思います。
カドコミュT:確かにコミカライズは自分で全部作るオリジナルと勝手が違いますよね。
苗川先生:はい。「わたたべ」の時には言われなかった「文字が多過ぎ。ここ削ってください」っていうのを毎回毎回K氏に言われるんです。でも、それは「わたたべ」だけやってたら多分気付かなかった所なので、原作の芯をちゃんと守りつつ、何かしら削っていかなきゃいけない…っていう、その技術面などの知見を考えてもコミカライズはやって良かったと思ってます。
カドコミュT:他に良い影響をもらってるなと思っていることは?
苗川先生:サイン会で台湾とワシントンに行った時に、自由時間で現地の博物館に行かせてもらったんですけど、台湾では中華家具みたいなのを展示してるところがあって、「後宮」の資料にしたいと思っていっぱい写真撮ったりしたんですよね。また、「後宮」の中では宝石とかが結構出てくるんですけど、ワシントンの博物館でその鉱石だけを集めたお部屋みたいなのがあって、それも資料にしようってそちらも撮ったりして…。多分それらは「後宮」のコミカライズをしてなかったら「わー、すごいな」くらいは思いながらも、そこまでがっつり興味を持たずに終わっていたと思うんです。でも、「後宮」のおかげで、深く興味持てたし、自分の知見が広まったと言いますか、面白いと思うものが増えたと言いますか…そんなところが良かったなと。
カドコミュT:苗川先生の世界が広がった感じですかね?
苗川先生:そうだと思います。
※前編は一旦ここまで。次回、アニメ化決定の舞台裏や、苗川先生が思う「『わたたべ』で一番の美女」とは?に触れるインタビュー後編(11/13更新予定)に続きます。

著者:苗川采
あらすじ
海辺の街にひとり暮らす女子高生・比名子(ひなこ)は、凄惨な過去の記憶に囚われ、海の底にいるようないきぐるしさを覚える日々を送っていた。 そんな彼女の前に、ある日汐莉(しおり)と名乗る海色の瞳をした少女が現れ…。 「私は君を食べに来ました。」 「君が美味しく育つまで、私が君を守ってみせます。」 この邂逅がもたらすのは破滅か、それとも――。




