漫画『エスプレッソ・コーラ』作者・ほっかむりゆり子インタビュー【前半】 ~DL数245万超!療育現場から生まれた、家族と支援者をつなぐ物語

発達障害をはじめとする障害のある子どもたちに「療育」を行う児童発達支援スクールを舞台とした漫画『エスプレッソ・コーラ』。Amazon Kindleインディーズ配信版ではDL数245万超(※2025年12月末現在)を記録。130話を超え、累計7万件以上の星5評価を獲得するこの作品は、なぜこれほどまでに読者の心を掴んでいるのか。
作者のほっかむりゆり子さんは、自身が児童発達支援管理責任者として療育の現場に務めた経験を持つ。「児発(児童発達支援)の漫画ってないな」という素朴な気づきから始まったこの作品は、やがて当事者家族や支援者たちの「祈り」を受け止める存在へと成長していった。
そんな熱い支持を受ける『エスプレッソ・コーラ』が、このたびカドコミにて『ニーチェ先生~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~』で知られるハシモト先生の作画により、商業誌版『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』として再発進する。
カドコミでの同作連載開始(1月23日配信予定)にあたり、原作者であるゆり子さんに『エスプレッソ・コーラ』誕生の背景と、作品に込めた想いを聞いた。

※「療育」とは
「治療」と「教育」を組み合わせた言葉で、障害のある子どもや発達に特性のある子どもが、日常生活や社会生活で困りごとを解決し、将来的に自立するための支援を行うことを指す。現在では児童を対象とした療育機関の事業所数は国内に約3万件存在しており、利用児童数は45.7万人に上る(未就学児を対象とした児童発達支援、小学生を対象とした放課後デイサービスの総計:令和4年度/こども家庭庁発表)。


カドコミスタッフK(以下K):まず、『エスプレッソ・コーラ』という作品を漫画として発表しようと思ったきっかけはどのようなものだったんでしょうか? ゆり子さんが漫画として発表されたのは『エスプレッソ・コーラ』が最初になりますか?
ほっかむりゆり子(以下:ゆり子):そうですね。子供の頃に自由に落書きしたり、好きなキャラクターを少し描いてみるぐらいはしていましたけれども、基本的にちゃんと漫画として描いたのは『エスプレ』が初めてでした。
K:そうなんですか!? 最初からネームというか構成の見せ方みたいなものがすごくしっかりされていたので、Kindleで発表されている『エスプレッソ・コーラ』もサクサク読まされてしまいました!
ゆり子:いえいえそんな…。でもやっぱりジャンプ漫画が好きだったので、漫画ってとりあえずこうやってこうやってドンって見せればいいのかな…というのを見様見真似でやってみた感じでした。一番最初はインスタで正方形の形でアップしていたので、漫画と呼べるほどの漫画じゃなかったんです。
K:インスタで発表されていた時期は療育機関でのお仕事を並行されていた時期だったんでしょうか?
ゆり子:そうですね。並行してましたね。
K:療育の漫画を描こうと思ったのは、なにかきっかけがあったんですか?
ゆり子:いえ、最初はそんなに強い志ではなかったんです。「児発(児童発達支援)の漫画ってないなと思って、それで描いたら読んでもらえるんじゃないかと思ったんですよね。
一度、インスタで「児発のドラマがあったらいいよね」みたいなことを書いたらそこそこ反響が来たんですが、そこで実際にテレビドラマが作れるかと言ったらそんなわけはないので、じゃあ私が漫画で描こっかな、みたいな感じでした(笑)。
でも、第1話では反響もそこまであったわけではありませんでした。こんなものかな~なんて思いながら、次の「アンジェルマン症候群」の話で保護者サイドにスポットを当てたらそれなりの反響があったので、「そうか、共感性が大事なのか」と。支援者としての目線も大事だけど、保護者の共感性があった方が読まれるのかと思って、だんだん今の感じになりましたね。

Amazonkindle版『エスプレッソ・コーラ』第2巻/アンジェルマン症候群編
K:「アンジェルマン症候群」のお話は何回読んでも泣いてしまいます。(『アンジェルマン症候群』編は、カドコミ配信の商業誌版『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』でも第2話での配信を予定)。親として子供を想う気持ちはあれど、障害のある子をワンオペで育てるのはやっぱり肉体的な苦しさが現実にあると思うので…。
ゆり子:本当ですか。そう共感していただけたなら良かったです。
K:『エスプレッソ・コーラ』は全編を通してその特性を持つ子供だけではなく、その家族まで救うことを目指す視点で描かれていると思いますが、やはりそれは、ゆり子さんご自身が療育の現場で感じられていたことなのでしょうか?
ゆり子:そうですね。やっぱり家庭をなんとかしないと子供にまでケアが行き届かないということが多分にあって…。実際、それが現場でできているかというと、現場ではどうしても子供にフォーカスが当たりがちではあるんですけれど。ただ、ご家族の方が不安定だったり、いろんな悩みを抱えたままだとやっぱり子供が落ち着かなくなってしまうんですよね。
なので、子供を根本的にいい状態にするとなれば、やっぱり療育だけの力だとどうにもならない面も多かったんです。どんなに私たち支援者やいろんな関係機関が頑張っても、家庭が荒れていたら振り出しに戻ってしまうなどはあるので、やっぱり家庭のケアは大事かなと思いましたね。
K:『エスプレッソ・コーラ』の中でも様々なタイプのご家庭が描かれていて本当にリアルですよね。たとえばですが、ご家族の中でも家族の中の誰かがその障害を受容できていないとか、その辺りのバリエーションのあり方も本当にリアルだなと。
ゆり子:そうですね。やっぱりいろんなフォロワーさんからDMとかコメントもいただく中で、ご自身のことをいっぱい語ってくれる方も多かったんです。もちろん、それをそのままエピソードにはしないんですけど、本当にそれぞれいろんなパターンがあって、こういう感じで悩むんだという、悩みを作る構造などを勉強させてもらえたと思います。こういうところで人は詰んでしまうんだなとか、そこで心が折れてしまうんだな、などの構造のヒントはいただいてますね。
K:でもそれだけコメントを寄せてくれるというのは、やっぱり、ゆり子さんにこそ聞いてもらいたいんだという方が多かったんじゃないでしょうか。
ゆり子:そうですね。でも、少し前のほうが迷える方からのコメントは多かったと思います。コメントでも、皆さんの「どうしたらいいかわかんない。わかんないわかんない…」の大混乱が押し寄せてくる感じだったんですけれども、『エスプレッソ・コーラ』を続けていって、漫画の中でその方向性を出していっているうちに、フォロワーさん自身が理解されていったというか。成長…って言ったらおこがましいんですけど、こうやっていけばいいんだな、ということを漫画を通して皆さんが腑に落ちてくれたのかなと少し思っています。
K:それは実際にあると思います。『エスプレ』は読んでいて、子育てというか、特性のある人との接し方のヒントになるところが本当にたくさん描かれていると感じるので。

『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』漫画:ハシモト/原作:ほっかむりゆり子/第1話(1月23日カドコミにて配信予定)
ゆり子:だから、読者さんから来る質問のレベルも、今は以前よりすごく上がってますね。以前はもっと答えやすい質問だったのが、『今、こうやってこうやってこうやって実践してるんだけど、じゃあこれはどうしていったらいいんですか?』みたいな、基礎としてやれることはやった上での質問になっています。だいぶみなさんの知見が上がってるのを感じますね。
K:ある程度のことは『エスプレ』本編を読めば解決するけれども、今はそれで解決しないところが質問に上がってくるという感じなんでしょうか?
ゆり子:解決……そうですね。でも最近はもう、そこすらも超えて、解決しないことは分かっているけれど、方向性としてこれで大丈夫か?みたいなコメントが増えましたね。本当に読者のみなさんの、特性のあるお子さんとの接し方の姿勢が変化しているのを感じています。
K:発達障害関連の情報って、毎日ニュースサイトやXでも見ないことがないくらい溢れていると思いますし、ほぼ毎日のようにいろんな意見が飛び交っていて、「療育」という言葉も以前よりも見かけるようになったと思います。その現場にいらっしゃったゆり子先生から見て、「療育」につながることはやはり良い影響が多いのでしょうか?
ゆり子:そうですね。やっぱり療育に繋がることが子供の安定に繋がりやすいことはあると思いますし、支援が介入する時期もやはり早い方が子供と関係性を築きやすいという面で良いポイントはあると思うんですけれど、でもじゃあ早くから療育に来ていた子が安泰かっていうとそういうわけでもないし、早いうちから療育に繋がっていたのに不安定になっていく子もいれば、割と遅めに来たのにちょっと通ったらコロっと良くなっちゃうとか、いろんなパターンがやっぱりあるんですよね。
なので、早いから正解というわけでもないし、療育を始めるのが遅いから手遅れになるわけでもない。全員が1歳から療育に来ればいいかって言ったらそういうわけじゃないじゃないですか。すべての人が赤ちゃんみたいな時期から「がっつり療育!」みたいなのが正しいわけでもないし、やっぱり子供によって繋がるベストなタイミングも、どれぐらい通ったらいいかという量も違うんです。本当に子供によって全然違うので、早くから療育に行けなかったことや療育を受けられなかったことがイコール失敗にはならないと思っています。
思春期以降とかで子どもが大きくなってしまうとなかなか療育として関わることは難しくなってしまうケースも確かに存在するかなとは思うんですが、でもまあ、そこで終わりっていうわけでもないですから。エスプレでも、「今療育に繋がれないから終わりじゃない」という話は描いていますけど、それも含めて人生トータルでの1つの過程かなと。
確かに読者さんから「やっぱり早くから療育に行けばよかった」「もっと早く気が付けばよかった」みたいな後悔のコメントもいっぱい届きますし、その気持ちもすごくよくわかるんですけれど、逆に最近の療育に繋がれない親を「あの親は気づかない親だ」みたいに、ちょっとマウントを取るような風潮も私はいかがなものかなと思ってますね。
K:それぞれ親子のあり方にはいろんな状況があるでしょうし。周りの環境にしてもそうですが、その子の特性によっても、その「困り感」にすごく気が付かれにくい子もいると思いますし。
ゆり子:そうなんです。私から見ても、初対面ではなんで療育に通っているのかわからない子はやっぱりいました。児発に来ていても長く深く関わらないと、その困り感が見えてこないような子は本当に気づかれにくいだろうなと思いますね。
K:同じ特性でも環境によっては許されなくなる、みたいな場合もどうしてもあるでしょうしね。
ゆり子:そうですね。環境が変わると困った子として見られてしまうとか。こっちの環境では問題なかったけれど、こっちに来たらすごい問題のある子にされてしまうとか、環境に左右されやすい面もたくさんあるし、そばにいる人によっても変わってしまうことがあるので…。社会全体的にもうワンランクぐらいこれらの障害や特性について認知度が広まってくれると、実際に特性のある子供を持つ身としても助かるなとは思いますね。
■児童発達支援を舞台に選んだ理由
K:ゆり子さんは介護の方の資格も持っていらっしゃって、障害のある方の入所施設でも働いていた経験がおありですが、漫画の舞台を「未就学児の児童発達支援」にしようと思ったきっかけは何かあったんでしょうか?
ゆり子:いや、これは本当にそこまで強いこだわりがあったわけじゃなくって…。そうですね。まあ、入所施設の話も描きたいところではあるんですけど、やっぱり療育の知識だとか考え方が広まると、入所になる前に留まれるケースもあるかなと感じたんです。
児発の話を例を出したほうが、「ああ、ここでこうやって踏みとどまればまだなんとかなるかもしれない」とか、「こうやって対応すればいいのかも…」というモデルケースになりやすいかなと。
ただ、入所の面も大事なので作中でも関連の入所施設を出しながら、入所ではこうですよ、というものも見せています。家庭によっては入所することがお互いにとってベストな選択であるということもあるので。
でもやっぱり療育の知識って、研修とかも決まった形があるわけではなかったりもしますし、事業所によってはすごく熱心に社員教育をやってくれるところもあるんですが、それでも経営者側がよくわかっていなかったり、そもそもみんなよく分かってなかったり、研修もどうしたらいいか分かりません…みたいなケースもやっぱり結構多いとは感じています。
『エスプレ』は研修の本になるような漫画では全然ないんですけど、多少参考になってくれたら…みたいな。この話のここが気になるから、自分でもこのあたりについて勉強してみよう、みたいなきっかけになればいいかなとは思いますね。
■読者からの熱い支持
K:『エスプレッソ・コーラ』はKindleでの配信ではもう130話ほど続いていますが、ずっと星5評価がついていて、総合計すると7万件以上になっています。
ゆり子:そうですね。単純に多分漫画として楽しんでいただいてる方もたくさんいるとは思うんですけど、『エスプレッソ・コーラ』は読者の方がすごく熱心に、自発的に布教活動をしてくださるんです。それこそ、なんとかこの漫画を世に出してあげたい、みたいに協力しようとしてくださる方がいっぱいいるんですよね。
でもその背景って、やっぱりこの漫画が出ることで自分の子がもうちょっと生きやすい世界になるんじゃないかとか、まあ、あと自分自身も生きやすくなるとか、この漫画がたくさん広がれば先生たちとか周りの人とか家族や親族もこの子に対する見方を変えてくれるんじゃないか……というところの、悲願というか祈りというかがあるんじゃないかと思っています。
K:実際、祈りというのは本当にそう感じますね。最近では発達障害の情報もずいぶん出てくるようになって、学校の先生方なども理解したいと思ってくれているのは伝わるけれども、実際に当事者からするとどうしてもちょっとずれていると感じることもあるんじゃないかと。
ゆり子:そうです。ありますね。
K:そのもどかしさを埋めてくれそうな期待感がこの作品にはあると思いました。この当事者の気持ちの解像度の高さは、やっぱり漫画っていう表現が一番伝わりやすいもののような気がします。
ゆり子:そうですね。やっぱり学校の先生でも幼稚園、保育園の先生でも療育の先生でも、「先生もっと勉強してください」ってお願いしたところで、先生たちも「じゃあこの子のケースはどの本を読めばいいの?」となってしまう。それこそ子供次第でケースは無限にありますし、関連本を片っ端から読む…なんて現実的じゃないですし、そもそもやっぱり忙しいじゃないですか。で、頑張って本を5冊読んでも本当にためになるのって数ページしかないとか、そもそも本の探し方すらもよくわからない方も多いと思うんですよね。
理解はしたいけど、じゃあ何がわかってないのかも自分ではわからないことも多いので、具体的なケースを見てもらって考え方の手助けになればいいかなと思っています。
※前編は一旦ここまで。次回、インディーズ配信版での反響やハシモト先生作画版の商業誌版『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』への思いなど聞かせてもらったインタビュー後編(1/18更新予定)に続きます


