2026/01/16

漫画『エスプレッソ・コーラ』作者・ほっかむりゆり子インタビュー【後半】~ DL数245万超!読者と共に歩む作品づくり――多様なケースを描く意味

漫画『エスプレッソ・コーラ』作者・ほっかむりゆり子インタビュー【後半】~ DL数245万超!読者と共に歩む作品づくり――多様なケースを描く意味

発達障害をはじめとする障害のある子どもたちに「療育」を行う児童発達支援スクールを舞台とした漫画『エスプレッソ・コーラ』。Amazon Kindleインディーズ配信版ではDL数245万超(※2025年12月末現在)を記録。130話を超え、累計7万件以上の星5評価を獲得するこの作品は、なぜこれほどまでに読者の心を掴んでいるのか。


作者のほっかむりゆり子さんは、自身が児童発達支援管理責任者として療育の現場に務めた経験を持つ。「児発(児童発達支援)の漫画ってないな」という素朴な気づきから始まったこの作品は、やがて当事者家族や支援者たちの「祈り」を受け止める存在へと成長していった。


そんな熱い支持を受ける『エスプレッソ・コーラ』が、このたびカドコミにて『ニーチェ先生~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~』で知られるハシモトの作画により、商業誌版エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~として再発進する。


カドコミでの同作連載開始(1月23日配信予定)にあたり、原作者であるゆり子さんに『エスプレッソ・コーラ』誕生の背景と、作品に込めた想いを聞いた。

 ※「療育」とは


「治療」と「教育」を組み合わせた言葉で、障害のある子どもや発達に特性のある子どもが、日常生活や社会生活で困りごとを解決し、将来的に自立するための支援を行うことを指す。現在では児童を対象とした療育機関の事業所数は国内に約3万件存在しており、利用児童数は45.7万人に上る(未就学児を対象とした児童発達支援、小学生を対象とした放課後デイサービスの総計:令和4年度/こども家庭庁発表)。

■反響が大きかったエピソード

カドコミスタッフK(以下K)『エスプレッソ・コーラ』(以下『エスプレ』)を発表しはじめてから、一番手応えを感じたエピソードはどのあたりでしたでしょうか?


ほっかむりゆり子(以下:ゆり子)一番最初に大きな反響があったのはやっぱりADHD編ですね。あれが火付け役になった感じはあって、あのエピソードだけで数千人フォロワーが増えました。


その当時、漫画『リエゾンーこどものこころ診療所ー』(講談社/モーニングコミックス)でも知的障害がない発達障害の話は出ていましたが、それでも創作作品に出てくる発達障害児の話は基本的に、一般的にイメージしやすいタイプの自閉症の子の話が多かったような印象でした。やっぱり当時は「喋らない、人に興味がない、閉鎖的」な自閉傾向の強い自閉スペクトラム症の子が描かれることが多かったような気がします。今はもう少しグレーゾーンの話も増えたのかなと思うんですけどね。


ADHD編のわたる君みたく、普通に喋るし知的に問題はないけれど、めちゃくちゃトラブルになっている子供のケースが、日本の作品ではまだあまり取り上げられていなかった時代なのもあったのかなと思います。


また、あの話自体はわたる君と(主人公の)山原の成長物語になっているんですが、途中で保育園側の先生の視点を入れたことで保育業界の方に支持していただけたというのもあったかもしれません。


K実際、保育士さんには「あれ? もしかしてこの子…」と思い当たるケースにはやっぱり遭遇するんだと思いますしね。


ゆり子そうなんですよね。保育士さんの視点が入らないとわたる君に理解のないひどい保育園みたくなってしまうので、そことはやっぱり現実ではちょっと違う話というか、そういうわけではないことが多いんだと思うんです。確かに保育園が問題を起こしやすい子に対してもっとやれることはあるのかもしれないけど、向こうは向こうでだいぶ限界なんだよっていうところを、ある意味公平に入れたことで、読んでくださった皆さんの視野を広げることができたんじゃないかなと感じました。


今となっては複数の視点を入れるのはエスプレの芸当みたくなっちゃってるんですけれど、当時は「あちら側の視点」が見えるというのは、新鮮に感じていただけたのかと思います。


K実際、私が初めてエスプレを読んだ時に「すごい」と思ったのは、まさにその多面的に物事を見ている構成でした。保育士さんの視点、支援者である療育機関側の視点、保護者さんの視点、そして子供の視点、と…。反抗的で、他の子を叩いてしまうADHD編のわたる君などは特にその視点次第ですごく見方が変わりますね。


Amazonkindle版『エスプレッソ・コーラ』第3巻/ADHD編

ゆり子そうですね。


Kたとえばこれが同じ保育園に子供を通わせてる保護者の立場だったら、「あの子を近づけさせないでください!」なんて気持ちになることもありそうなケースだと思うんです。でもそれが、視点を変えるとわたる君の本当に困っていることや、本当はすごくいいところを持っている、すごく可愛いらしく愛すべきところを持っているということを、こんなにも説得力を持って描けるのかと…。保育士さんたちの困っていることも、保育園側でもちゃんと気が付けているけれども保育園の構造的にどうにもできないジレンマのリアルさなど、その多面的な描き方は本当にすごいなと思いました。


ゆり子こういうテーマを扱う以上は多面的に描いておかないと不用意に敵を作ってしまい、作品を通じて知ってほしいことが伝わりにくくなるんじゃないか…と思ったのもあるんです。Xなどでも偏った見方で書いてしまうと炎上するじゃないですか。でも、ほかの立場の方の視点からも描いておくと、「ああ、この作品は俺たちを敵にしたいわけじゃないんだ」みたいに思ってもらえるんじゃないかと。


K実際、誰かが悪者であるという話ではないですもんね。


ゆり子そうですね。まあ、時々ははっきり悪者であるキャラクターも出てきていますが、配置が変われば良くなるキャラクターもいて、そこは例えて言うならピッコロが仲間になるドラゴンボール的な少年漫画イズムかもしれません。


Kエスプレには悪役だったキャラクターがちゃんと仲間になっていくような、少年漫画的な面白さもあると思うので、そこあたりもぜひたくさんの方に楽しんでもらえたらいいですね

■テーマ選びについて

ゆり子最初は本当に何も考えずに出したい症例だけ出す、みたいな描き方だったんですが、そのうちにダウンロードの平均数だとか、どんな話を描いたらどういう伸び方したとかなどの数字の読み方やコメントの反応率が見えるようになってきたので、出し方を気にするようになってきましたね。やっぱり軽度の障害の話の方が共感率が高くて拡散性もあるんですが、やっぱり軽度の話だけをやっていたら伝えたいことは伝わらないんです。重度の障害の存在をなかったことにしちゃったら作品の本質とはずれてしまうし、重度のこともちゃんと描いていきたいと思ったので、軽度を描いたら次は重度、みたいな折り混ぜを長らくベースにしてましたね。


でも最近は単純に軽度・重度というよりかは、作品の呼吸として、ちょっと重い話で読者を疲れさせちゃったから次は少し軽めの回にしようとか、そういうバランスや波を意識はしてます。


K本当にひとつとして似たパターンもなく、あらゆるケースが登場することには驚かされました。「高機能自閉症編」のまいちゃんとか「積極奇異型編」のかよちゃんとか…。一見社交的で、ものすごく人懐っこいタイプの自閉症の子がいることなどは、エスプレを読むまでまったく想像していなかったです


ゆり子そうですね。自閉症と診断されて療育に来るお子さんでも、本当にタイプがたくさんあります。性格ももちろん違うし、まあ、性格と特性と環境かなとは思うんですけど、やっぱりいろんなパターン掘り当てて描いていくことで、「ああ、このシリーズはうちの子かもしれない」とか自分ごととして刺さると、やっぱり読者の方はそこからついてきてくださることが多いと思います。当事者の方でも「自分を見つけて欲しい」と思っていらっしゃる方はやっぱり多い印象ですね。

Amazonkindle版『エスプレッソ・コーラ』第4巻/高機能自閉症編

K障害児の数というものは全国的に見ると決してマジョリティではないとは思いますが、『エスプレ』はどんな人が読んでも全くの他人事にはならない漫画だと思うんですよね。子供がいなくても、近くにいる誰かだったり、自分自身だったり、何かしら「自分ごと」になりうるエピソードがある作品なんじゃないかと思っています。


ゆり子そうですね。大人にもいろんな大人が出てくるし、癖があったりなかったり色々ですけど、スタッフに自分を重ねる方もいれば、保護者に自分を重ねる方もいるし、立場は違うけど共感できるとか…。そういうのを感じて自分と重ねて読んでいただけると嬉しいですね。

■お気に入りのキャラクターとエピソード

ゆり子描くのが好きなのはかおる君(kindle版第39巻~第42巻「抑圧された妖精編」など)なんですけど、やっぱり山原君は主役なので、山原君が好きですかね。扱いがひどいように見えるかもしれないんですけど(笑)。


山原君は主人公なのにすごく目立たないんですけど、なんでこの人、こんなにいっぱい出てるのに目立たないんだろう??って考えていたんですが、それは山原君支援員だからなんだなって、最近ようやく気が付きました。


療育の時間って、やっぱり支援員は子供よりは前に出ないんですよ。基本的に子供の空気だったり、言語だったり、考えだったりに寄り添って、うまく黒子になってサポートする感じなんです。いかにも「手伝ってます」、「僕、やってます!」みたいな感じより、自然に寄り添う――みたいな気質が多分山原君にあるんでしょうね。


だからいろんなキャラの背中を押していくキャラクターだけど、本人は目立ってないんだなと最近になって気がついて、山原君はいい人だなって思うようになりました。


K作中でも、やらされてる感を子供自身が持たないような支援の仕方をしていますが、それは障害の有無にかかわらず、どんな子どもにも通用するやり方ですよね。


育児書なんかにはよく「自発的な子供の気持ちを引き出しましょう」「本人のやりたいという気持ちを大切にしましょう」なんて書いてありますが実際には「どうやって!?」って思うわけじゃないですか。でもそれを引き出すきっかけとして「まず子供をよく観察することの重要性をエスプレで知りました」なんて読者の声も見かけました。


ゆり子本当ですか? それはありがたいですね。

■ハシモト先生の作画版のエスプレへの期待

ゆり子最初にネームを拝見させていただいた時に何にも考えず最後までバーーーって読めて、読んだ後に「ああ、『エスプレ』だった」みたいな感じがあったんです。途中で何の引っかかりもなく、普通に漫画として楽しく読んでしまって、一気に読み終わった後で「今のはすごく…『エスプレ』だったぞ」みたいな。


絵はもう圧倒的にハシモトさんの方が全然すごいんですけど、ちゃんと『エスプレ』の構造というか、やりたいことや見せたいことをそのまんま引き継いで、さらに増幅させて見せてくれたっていう、そこへの感謝がすごくあります。

『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』漫画:ハシモト/原作:ほっかむりゆり子/第1話(1月23日カドコミにて配信予定)

ゆり子私が伝えきれていなかったところまで、一般向けに上手に翻訳をしてくださっていて…。これでやっともうちょっと作品が広まるのかもと思えたので、大変ありがたく感じていますね。


Kハシモトさんもゆり子さんの漫画の構成力、シナリオの構成力やセリフのパワーなどを本当に尊敬されていて、できるだけ原作をそのまま活かしたいとおっしゃっていました。キャラクターもゆり子さんのデザインが本当に秀逸でイメージが伝わりやすいと。特に悪役について、こういう嫌な感じのは実際にどこかにいる気がすると(笑)。


ゆり子どこかにいる気がするし見たことある気がするんだけど、どこでと言われたら出てこない…ないみたいな感じの嫌さですかね(笑)。


Kそうですね(笑)そこも含めて、すごくいいマッチになったと思っているので、ハシモト先生が描く『エスプレッソ・コーラ~児童発達支援ももの木スクール~』も本当に楽しみにしています。


ゆり子私もすごく楽しみです!

■影響を受けた漫画について

Kちなみにですが、ゆり子さんが影響受けていると感じている漫画とか、お好きな漫画があればお聞かせいただければと思うんですけれども。


ゆり子そうですね。やっぱりドラゴンボール一番好きかなと思います。本当に原作の最初のドラゴンボールが子供の頃からすごく好きで、思想も影響受けてる気がしますね。


Kそういえば、鳥山先生もあまり悪者を作らないというか、立場が変われば見方が変わるキャラクターを描かれていますね。


ゆり子そうですね。敵キャラも仲間になるし、でもやっぱり単純に「頑張って強いやつを倒す!」っていうのがいいなと思ってて。勝てなそうなやつだけど修行して頑張って頑張って絶対倒すぞ!みたいな、そういうマインドがやっぱカタルシスを産むのかなと思ってます。

今後の展望

K今後のエスプレの展望や目標などがありましたらお聞かせいただければと。


ゆり子そうですね。やっぱり、ドラマ化するぞ!!っていうことで読者を巻き込んでいたので、ドラマ化は読者と私、みんなの目標かなって思っています。


読者の方からは「これはドラマになったら山原君と高野先生くっつけられるんじゃないですか!?」とか言われるんですけどね(笑)。まあでも、どんな形にせよ、ドラマ化まで行けたら長年読者を巻き込んだ私の目標が達成できるかなと思うので、やっぱりドラマ化できたら嬉しいですね。


K最近は自閉スペクトラム症を扱うドラマや映画にも少しバリエーションが出てきたというか。以前は映画『レインマン』に代表されるような、自閉傾向が強くてコミュニケーションが取りにくいケースが作品に登場することが多かったと思いますが、最近は海外の映画などでも、もう少し障害が分かりにくいパターンが出てきていますよね。LD(学習障害)なども日本でドラマになっていますし、エスプレはさらにもう一歩、そういう知見を広げられる作品になっていると思うので、これを読んでいるドラマ関係者の方がいたら是非注目していただきたいですね!


ゆり子そうだとありがたいですね。ハシモト先生が本当に素晴らしく仕上げてくださっているので、ぜひ今後の連載を注目していただけると嬉しいです。

■今すぐ読む

漫画:ハシモト 原作:ほっかむりゆり子 監修:今西洋介


あらすじ

児童発達支援――。それは発達障害などを持つ未就学児の子どもを対象に、個々の特性に沿って発達を促し、自立の基礎を育む機関。2012年の制度開始以来、その事業所の数は急増し続けている。ADHD、自閉スペクトラム症、遺伝子疾患による発達の遅れ――。様々な障害を抱える子供たちの問題は、時にその家庭から支援を必要とする。Amazonkindleにて100万DLを記録した伝説の作品を『ニーチェ先生』のハシモトがコミカライズ!

■過去の記事

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